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彼が木を描かなった(ことがバレた)ワケ

THEATRE E9 KYOTOを舞台に開催する展覧会『blue vol.1』の準備が佳境を迎えている。

そりゃそうだよね! なんせ金曜(19日)搬入、土曜(20日)初日だものね。

キャーーーーー!!!!!

THEATRE E9 KYOTOは主に舞台公演を上演する小劇場だ。だから基本的な空間構成としてステージ側と客席側とがあり、僕たちのプランにおいてはステージ側の壁にバン! バン!! バン!!! と、いわばメインビジュアルのような写真(撮影:成田舞)が展示される。

本展では成田氏撮影の写真だけではなく、彼女の写真をスウィングメンバーが絵画として表現し直したり、その絵画を再び成田氏が撮るという多層的な構造、作品群を見ていただきたいと思っているのだが、ともかくメインビジュアルのひとつを堂々と描き直したのはスウィングの誇るエース、XLだ。

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ところが、である。

10日ほど前、「できた」というのでその出来上がりを見せてもらうと、なんかもう確実に何かが足りない。

彼がものすんごく対象をデフォルメするのは、まあいつものことなんだけど、そもそもの写真がシンプルだから、あまりにも大胆に削ぎ落としたものがなんなのか? 一発で分かる。

「はっちゃん(本名・服部光男なので)、木ぃ~ないなってるやん! 切ってもーたん??」

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笑って言うと、彼は「木ぃ~難しいもん!」とやはり笑う。

難しいから描かない。デフォルメってたぶんそういうんじゃない気がするけど、なんてシンプルな理由なんだろう。

でも、今度は「木がある」バージョンも描いてみてよ。時間まだまだあるしメインなんとかなんやし。

は? いやいや、「描けるかなあ」って普通はあるものをここまでないことにするほうが難しいと思うで……。 

「描ける描ける」と適当に励まし、その場を後にする。おれにはおれのやることがある。

なんだかんだ早々に「木がある」バージョンにチャレンジしはじめたXL。

しかしサッサと手を動かしながらも、ブツブツ止まらない彼の独り言が気になってしかたないのは西川君だ。

「なんでバレたんやろ?? なんでやろな」

はて? あなた何を言ってるんですか?? 「なんでバレたんやろ??」ってなんか悪いことでもしたんかいな。

さりげなさを装いながら耳をダンボにしていると、いや、ダンボにしなくても普通に聞こえてくるのだが、いや、この「耳をダンボにする」って表現、2021年にまだ使うのってどうかと思うが、何はともあれXLのブツブツに耳を澄まし続けていると、ほどなく漏れなくその核心部分が聞こえてくる。

「なんで木ぃ~描いてないのバレたんかな??」

それ!?? それって木ぃ~描いてないのを、なんで木ノ戸さんが分かったのかが分からないってこと??

すごい。これはミステリーではなく、もはやサイコスリラーである。「バレた」っていうのもすごい。まさか後ろめたさを持っていたなんて気づかなかったし、その後ろめたさも蛇口全開ダダ漏れだ。

でも分からないんならきっと教えたほうがいいのだろう……と思い、恐る恐るXLに近づき西川君は呟くように言う。

「バレたん、木ぃ~描かへんかったからやで」

ああ、やはりか……。実際に口に出して言ってみても、やはりトチ狂った答えだ。

「なんで生きてるんやろ?」「生まれてきたからやで」。いや違う。これはちょっと問いが深い。

「なんで頭めっちゃ痛いんやろ?」「さっき頭めっちゃ強打したからやで」。こんなところか。

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「そうか。木ぃ~描かへんかったからか! 描かへんかったからバレたんか!」


濃い霧がいきなり晴れたかのように疑問が解決し、スッキリした様子のXL。

けれど深い精神の迷宮に取り残されたままの西川君を救うのは一体誰なのだろうか?

まあそれはそれとしてほっといて、ぜひ展覧会に来てください。

そこには木ぃ~がないのもあるのも、両方飾っておりますので。


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