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「境界線」上の京都人力交通案内 episode 2

なぜか京都市バスの路線・系統を(ほぼ)丸暗記しているQ&XLのヘンタイ記憶を駆使し、観光客やお困りの方にベストな行き方、乗り継ぎをご案内する京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」。

去る10月28日(月)。

月イチの出動日であるその日、Q氏の姿が朝から見えない。

まあ出動は午後からだし、彼が遅れてくることはしょっちゅうなので……て言うかスウィングには「遅刻」という概念すら無いに等しいので、最初は誰も気にも留めなかったのだが、お昼前になっても来ないとなると、さすがにちょっと心配になる。

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電話をしてみるが、出ない。

自分からかけた電話に出ないと怒るクセに、出ない。

きっと前日の「命の渚コンサート」に疲れてしまってグーグー寝ているのだろう。

ビッグチャンス到来である。

2016年6月に実施した「JR京都駅編」(=「境界線」上の京都人力交通案内)は、著書『まともがゆれる』にも加筆修正して収録した名エピソードだ(言うよね~)。

何がどう「境界線上」なのか? は前回のレポート(→)に委ねるとして、我々は、いや、Q氏を除いた3人(木ノ戸、美馬君、XL)は再び京都駅に出動するタイミングを慎重に探り続けてきた。

あのとき、Q氏が警備員から受けたストレス。

特技のひとつに「人を威圧すること」がある割に、威圧的な人にはめっぽう弱い彼の性質を僕たちはよく知っている。

だからこの間、「今度、京都駅に行くときには普通のカッコして、普通の人のフリをしながら、おれたちを助けて」「ほんで警備員が近づいて来たら、すーっと遠ざかって」などのアイデアを提案したりしていたのだが、とにかく強烈な苦手意識を持ってしまった彼にとっては「行かない」ことが最適。

でも「自分の仕事だ」という責任感も強いので「行かない」という選択もしづらい……じゃあ、どうしよう?? という状況から、なかなか前に進めなかったのである。

しかしながら、出動日にも関わらず来ないということは、彼に遠慮をしたり妙な工夫をする必要もないし、また彼自身が悩ましい選択や判断をする必要もない。

これはもう行くしかないではないか!!

Q氏よ、最高の無断欠勤をありがとう!!

何度も電話して出られてしまっては困るので、「心配で電話したよ?」という足跡だけをちょろっと残し、我々3人は実に2年4ヶ月振りにJR京都駅へと向かった。

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前回はまだ美馬君(撮影やデザイン担当)もチームに加わっておらず、ユニフォームもなかった。

朝日新聞夕刊トップを飾ったのも最近のことだし、つまりはこの活動の知名度も今よりずっと低かった(今でも大したことはないが)。

さあ、警備員とのコミュニケーションに変化はあるのか、ないのか?

やってみなくちゃ分からない。

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前回と同じく情報が渦巻きすぎるやかましい電子掲示板前は避け、まずは京都市内や駅周辺の「案内図」前に陣を構える。

紅葉シーズンにはまだ早いこともあってかニーズはそこそこ、しかもなぜか日本人へのご案内が相次いだ。

どうしてかしら?

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Q氏の意見を聞いたり遠慮したりする必要がないからか、XL氏が繰り出す案内はいつにも増してスムーズだ。

もちろんQ氏を邪魔者扱いしたいわけではない。

2人のヘンタイ知識や案内の仕方にもやはり違いがあって、XL氏の案内は「速攻&スタンダード型」、対してQ氏は「熟考&トリッキー型」(「アーティスティック」とも呼べる)と言えるだろう。

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異なる個性を持つ2人が補い合うからこそ良い案内ができるのであって、即ちこの日のXL氏の案内には「もっといい行き方があるのかもしれない」という可能性が常につきまとっていたように思う。

でも、ま、京都駅は何に乗っても始発だし、間違えた案内をしているわけではないのだからそれでいいのだ。

可能性って求めればキリがないし、時々とっても厄介だよね?

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雰囲気に慣れてきた頃、恐る恐るややこしい電子掲示板前にも行ってみる。

やはりここは異常にニーズが高い。

が、ひっきりなしにやって来る「迷い人」への案内をスムーズに行えたのは、「混乱するから電光掲示板は見ない」という鉄則を事前に決め、守ることができたからだろう。

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この方たちは「Golden Castle」に行きたいと。

もちろん正解は「金閣寺」。さすが世界中でいろいろな呼び方をされているようだ。

「B2のりば」から、205、急行101、もしくは急行111に乗っちゃってください。

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……そう、ただの「Bのりば」ではなく「B2のりば」からね!

同じ「のりば」名なのにAとかBとかCとかDとか、場所によったら10ヶ所くらいあったりする、ややこしい京都市バス。

ここ京都駅はそのややこしさの極致! 市バスだけで15ヶ所(JRバスも含めると18)もの「のりば」がある。

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「バスターミナル」としてきれいに整備されているからコツさえ掴めば結構分かりやすいのだが、慣れない人にとってはやはり混乱必至だろう。

だから行き方を案内しても「で、その『のりば』はどこ?」と質問が続く場合が多く、そんなときにはターミナルの近くまで行って「指差し確認」をして丁寧に案内を完遂した。

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老舗百貨店「京都大丸」に行きたいというこの方(中央、案内用紙を持っている方)。

「A1のりば」から5系統に乗り、「四条高倉」で降りるようご案内するが、直後にXL氏があることに気づく。

「あ、五条通のヤツは行かへん」

……よく意味が分からないが、どうやら5系統であっても「四条高倉」へは行かないバスがあるらしい。

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男性を追いかけるように「A1のりば」へ行き確認すると、なるほどそういうかことか。

5系統にも2種類あって、「五条通/5」は通常の5系統とは違うルートを辿るらしい。

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まったくもってややこしいが、それよりなんでそこまで知ってるの??? あなた!!!

あらためてXL氏のヘンタイ知識に驚愕をしているうち、もうそろそろ営業終了の時間が近づいてくる。

足りない。何かが足りない。

警備員が足りない。

これでは前回と比較できないじゃない? と妙な焦りを感じていると、美馬君が「出てきました」と耳打ちをしてくる。

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おお、ほんまや。……でもスルー???

いいやん、いいやん! 分かっちゃいるけど、スルーって最高やん!

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あ、いや、やっぱりガッツリ来た。

さあ、ここからだ。

「何をしてるんですか?」

「迷っている方たちにバスの乗り継ぎ案内を」

「おお、それはご苦労様です」

「いやいや、警備も大変でしょう。こんなに大きな駅だから」

「まあ仕事ですから。お互いがんばりましょう!」

「ありがとう!」

……とは全然ならなかった。

それどころか前回のようなファッションの話はすっ飛ばされ、「許可を取ってやってください」の一点張り。

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そして(前回と同じく)一点張りの間にも迷い人は続々やって来る。

そりゃそうだ。困っている人たちにとって、許可もクソもあったもんではないだろう。

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ほらほら、上手く案内できないじゃない?

だからね、別にお金が欲しいわけでもなく、宣伝がしたいわけでもなく、ただの親切をやってるだけなの。

「ええことしてまんなあ!」までいかなくとも、「変わった人たちもいるもんやなあ」では済まないのだろうか。

しかし、どれだけ説明しても言葉を尽くしても、「許可」が何より大切らしい。

前回、その許可を取るところにも行ったけれど、「ボランティア活動に関する規約がない」って言われた経緯も説明するが、そんなことは知らん、とにかく許可!

前回レポートの締めに書いた一節が、激しく脳裏をよぎる。

「許可」という謎の、強大な力に縛られ、弾力を失ってしまった社会に心が白ける。そして世の中のあちこちに存在するグレーゾーンをどう捉えるかは、その社会が有する許容値(幅)を示す、ひとつの指標と言えるのではないだろうか。

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けれど白けていても進歩がないので、じゃあ、どこなら許可を取れるのか? とダメ元で尋ねてみると、前回とは違う「〇〇管理組合」いうところを教えられる。

う~ん、なぜ違うのか。でも違うってことは「前回とは違う回答が得られるかもしれない」とプラス思考を働かせ、○○管理組合はどこにあるのか? と再び尋ねると「知りません」だって……。

仕方がないから電話番号だけ教わり、我々は「まだ分からないぞ」と勇みながら帰路についたのだった。

そして早速テレフォン。

結論から言うと〇〇管理組合は前に相談したのと同んなじところで……なんや名前が複数あるのかな? もう分かんない!

でも担当者が以前とは違っており、うちではなくって京都市役所のある部署に相談して欲しいと言われる。

おお! これで活路が開けるのか!? とまだプラス思考は止まらなかったのだが、程なくこれが例のヤツだということに気づかされる。

たらい回し。

その部署の担当者・K氏はとても親切に対応してくれた。

でもとっても困ってしまっていて「権限を持つのは〇〇管理組合さんで、使用する際にはうちもお願いをしている立場なんです」と。

むふーーーー。

まぎゃくーーー。

とにかく面倒なことは十二分に分かったし、もっかい〇〇管理組合に問い合わせる気は起こらなかったので、一応最後に尋ねてみる。なんかいい方法はないですかね??

「う~ん、そうですね……。あ! 南口でやるのはどうですか???」

K氏の声が明らかに華やぐ。

基本的にネガティブ満載のやり取りの最中、この前向きな声はかなりうれしかった。

……でも、南口???

なるほど、僕たちが今回も前回もややこしい事態に陥ったのは京都駅・北口のほう。

普通、「北口」とはわざわざ言わないのだが、それは中央改札もあるし、(上述の通り)でっかいバスターミナルもあるし、真ん前に京都タワーもあるし、京都市内中央部のほうを向いているし、「南口」なるものがあることを感じさせないくらい、明らかに「表玄関」だからだ。

そして「南口」と区別したとしても、「烏丸口」とか「中央口」といった呼び名のほうが一般的である。

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対して南口(こっちは「八条口」が一般的な呼び名だと思う)は言うなれば「裏」のほうだから、なんちゅーか地味っちゅーか、盛り上がりに欠けるっちゅーか。

でも、近年は南口自体がかなり整備されたり、お店が増えたり、近くにデカいショッピングモールができたりで、以前とは比較にならないくらい人の往来もある

これはひょっとして、アリなんじゃないか。

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どこでも平気なXL氏はいいとして、後日「北口」に過大なストレスを感じてしまうQ氏にこのことを伝えるとニヤリ。

いいかも。いいかも。

これは実験してみる価値あるかも。

次回、京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」は11月27日(水)、京都駅・南口を第一候補としつつ、京都のどこかに出没予定である(たいてい当日まで決まらないんだな!)。

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