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揺れるヘンシュウチョー:Q is Q, XL is XL.

QとXL。二人の絵や詩を見ていてカッコいいなと思うのは、カッコをつけていないところだ。そりゃ人間だから「無」なんてことはない。XLはいつも「難しい、難しい」なんて独り言を言いながら描いているし、清濁あわせ吞むどころか、むしろ濁にまみれた詩ばかり書いているQは「評価されたい、売れたい」と言い続けている。でも、とにかく嘘がない。

僕は文章をよく書く。好きだから書いているし、自分にとっての救いのようにも感じている。けれどついつい力んでカッコをつけて、あざとく気の利いたことを書きたがってしまう僕にとって、二人のダサさ丸出しの姿はとてつもなく眩しい。だからこの文章は彼らに倣ってできるだけ素直に真っすぐに、勢いに任せて書いてみたいと思う。

二人のことがともかく好きだ。そりゃ二十年に及ぼうかという付き合いの中ではいろいろあったし、嫌いなところもあるけれど大好きだ。友人のような、家族のような二人を失うことなんて考えたくもない。

僕たちはそれぞれ<家族>と上手くゆかなかった。僕は結婚に失敗して離婚をし、Qは家で暴れまくり、XLは兄妹との折り合いが悪くケンカが絶えなかった。そうして家族とバラバラになって、僕たちの信頼関係は尚一層強まったように思う。僕がどんな失敗をおかしても、いつもXLは変わらない笑顔でただ「そうなんや」と、Qは「大変やったな」と言ってくれる。それぞれにしんどかった過去を生き、そこそこ色んなことが起こり続ける今を生きる二人のシンプルな言葉は心に深く響く。僕も二人に何が起ころうと何をやらかそうと、見下したり白い目で見たりはしない。

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憧れのような気持ちもある。Qは不安定さを隠さないところがすげーと思う。たとえば二〇〇六年三月末、スウィングのオープン直前。みんなで行った旅先で起こったあの出来事は、あれから十五年が経った今もなお、燦然と輝き続ける伝説のパフォーマンスだ。あの朝、彼はあることをきっかけにホテルのロビーで怒りの大声を発し、運悪くロビー内で展示販売されていた自動車を一発蹴り上げ、ロビーから階上へと続く大階段を駆け上がりながら、ずり落ちてくるズボンを脱ぎ散らし(凡人ならば履き直すだろう)、パンイチになったまま階上へと姿を消したのだ。つまり事件を眺めてざわつく人たちも含めて、この光景はシンデレラがガラスの靴を片っぽ落としたあのシーンと酷似しているのだが、あまりの意味合いの違いにあらためて驚く。けれど良い悪いではなく、こんなふうに感情のおもむくままに、嘘なく行動に移すことってできるだろうか。だって確かに誰の中にも暴力性はあるわけだし、人目なんて気にせず大声で叫び、ただ駆け出したいことだってあるだろう。

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XLはQとは真逆。とにかくメンタルが安定していてすげーと思う。昨年九月に大腸ガンが発覚したその日、告知の数時間後に部屋を訪れたヘルパーに彼は開口一番、笑顔で言ったらしいのだ。「ガンやったわ」と。このマイペースと自己開示。ガンが発覚しようとその手術の前日だろうとグーグー眠れてしまう無類の安定感。不安定が安定化してしまっている僕などにとっては正に未知の領域だ。が、そんな彼とて聖人君子ではない。だからこそ十六、七年前、妙なちょっかいをかけてくるQにキレて全力でしばいたのだし、怒りに我を忘れて追いかけ回したのだ(ただしズボンは脱いでいない)。ちなみにそのときの恐怖は今でもQの中に根強く残っており、それゆえ二人は抜群の距離感を保ちながら隣同士で仲良く暮らし、最近では毎日のようにQが持ち込む愚痴に、XLはにこやかに耳を傾けているのだという。

QとXL。二人は障害者でも障害者アーティストでもなく、名もなき芸術家でもない。そんな言葉やラベルに鼻クソほどの意味はなく、QはQであり、XLはXLであり、それぞれに「自分という病気」を仕方なく抱えながら生きる、ただの人だ。 僕は子どもの頃、掛け値なしに、今の二人と同じように絵を描くことが大好きだった。あの感じはまだ僕の中に残っているだろうか。今、決めた。また絵を描いてみよう。お手本はすぐそばに二人もいる。

(フリーペーパー『Swinging vol.30/Q&XL特集』より転載)


文・木ノ戸昌幸(きのと・まさゆき)

1977年生まれ・愛媛県出身。引きこもり支援NPO、演劇、遺跡発掘、福祉施設勤務等の活動・職を経て、2006年にNPO法人スウィングを設立。単著に『まともがゆれる ―常識をやめる「スウィング」の実験』(朝日出版社/2019年)。

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