さよなら人類
プチコロリ、ゴミコロ支部、寸劇「まち美化戦隊ゴミコロレンジャー!!」など、我らが清掃活動「ゴミコロリ」からは、様々なスピンオフプロジェクトが生まれている。
けれど「ゴミコロリP」をご存知の方はほとんどいないんじゃないだろうか。
まるで腹痛の薬のようなネーミングだが、もちろんそうではない。
「P」は「Parking」の「P」。
つまり「ゴミコロリP」とは、コインパーキング清掃に特化したゴミコロリなのである(ちなみに勝手に特化しているわけではなく、管理会社の依頼によって成り立っている手堅い仕事なのだ!)。
月に2回、毎回3~4人のメンバーで出動するこのお仕事。
ああ、この日はよりにもよってこのメンバーなのね……。アッキー、西川、XLの3人なのね……。
実はアッキーとXLは、露骨にいがみ合ったり、口を聞かぬほどではないけれど、はっきり言ってあんまり仲がよろしくない。
先月の一泊旅行(行先:京都・花脊)では、一部のメンバーがひたすら野球をしまくっていたが、「決して走ってボールを追わない」アッキーに、XLがブチ切れかけていたことは、その場にいた誰もが知る事実だ。
ああ、この日の「ゴミコロリP」でも、あかんほうのアッキーが思い切りはみ出しているようだ。
コインパーキング清掃というミッションに勤しむアッキーはどうあかんのか?
もちろん走って追いかけるべきボールはないのだが、もうええ! っちゅーのに精算機ばっかり拭き続けているのだ。
パッと見、「やってるふう」に見えるけれど、それ以上にハッキリと見えるのは全身の毛穴から噴き出しまくる「怠惰」という名のオーラである。
しかも「まだやんの???」みたいな感じでチラチラ見てくる視線が西川には痛い。
ハートの一番デリケートな部分にズンズン突き刺さってくる。
何とか視点を変えないとハートがもたない。
なるほど、アッキーは墓参りにやって来て、ご先祖様のお墓を一生懸命拭いているのか。
随分と久しぶりなもんだから、その申し訳なさも手伝って、もうええ! っちゅーのにしつこく拭き続けているのか。
な? 墓にしよ?
目~細めて精算機、墓に見立てよ?
そしたら一見、好青年に見えるくない?
イライラしはじめたXLに無言のメッセージを送る西川であったが、まあ、そりゃ無理だ。
どう見てもアッキーはゴリゴリの精算機を無意味に拭き続けている。
たまりかねたXLは、怒気をはらんだ口調でこう言う。
「アッキー、もうそこ拭かんでええて! こっちやって!」
が、無念、アッキーは「え~? なに~?」とまるで意に介さない。
本当は聞こえている。もちろん意味も分かっている。
が、それでも(できるだけ力を込めないように)優しく優しく精算機を拭き続けている。
西川のハートは余計にざわつく。
ああムカつく。ああ体に悪い。
……いや、「ご先祖様のお墓大作戦!」を遂行しているおれでさえ、こんなふうなのだ。
丸腰で正しいことを言って、思い切りスルーされたXLの心中は怒りの業火で燃えているのではないだろうか。
しかし、事実は小説よりも奇なり。
西川は思いがけず、ひとりの男が遂に悟りを得る瞬間を目撃する。
「あ、そうか。アッキーに言うてもしかたないんやったわ」
そのとき、西川の目の前にはご先祖様のお墓を熱心に拭き続ける男と、男を冷徹に見つめる仏の姿があったという。