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山を泳ぐクジラ8(開業のススメ)

「秋斗はモンゴルの出身なんですヨ」

「へぇーそう言われてみれば何処となくそんな雰囲気が」

「ゴメンナサイ、笑わせようと思ってジョークのつもりデシタ☺」

ナルスはちょっと恥ずかしそうに微笑む

「ゴメンねぇ、お兄ちゃんって何でも鵜呑みにしちゃうから冗談通じない人なの〜☺」

「いや、サキだっておんなじだろ?」

「私わぁ、純粋なだけだょー」

デザフェス

東京ビッグサイトで開催される巨大なフリーマケット(個性的な小さなお店が6500店も並ぶ)に妹と行った時知り合った夫婦との会話

奥さんのほうがロシア出身のナルス
ロシア人のイメージ白人ではなくどちらかと言うと中国よりで、はっきりとした顔立ちと切れ長の瞳は俳優の菜々緒に似ている

旦那の伊藤秋斗さんは、日本人だけどやはり大陸よりでとても穏やかな雰囲気なのだけど、フェスで売り物を見ている時はハンターのような鋭い視線だったのが印象的。普段はゾゾタウンの前澤友作ぐらい常に笑顔


デザフェスのブースの中でひときわ異彩を放っていた店がある


アイヌ民族衣装のような服装の女性が、踊りながら牛の骨で作られたギターを鳴らしていて、同じような衣装と怪しげな楽器など販売していた


一点物ハンドメイドの尖った商品

伊藤夫婦は奥さんの出身地あたりの民族衣装だったらしくこちらに吸い寄せられた様子

妹も民族楽器を演奏するので興味しんしん

演奏を囲むようにギャラリーがいた中でとなりで見ていたナルスが妹に話かけている


「コレ可愛いでしょ私の出身地の衣装なのョ゙」

「あら、お姉さんもお店の人ですか?」

「いいェーただの通りすがりのロシア人ナノ」

「へぇー言わないと日本人かと思ったぁ~」

女子トークに花が咲きフェスを出てから近くのカフェでガールズトークの延長戦となる

不思議な縁


海外貿易アシスト会社 
松本市中央〇〇ー〇〇

旦那さんから名刺を貰ってびっくり

「え、2人とも長野県に住んでるの?」

聞けば伊藤夫婦も松本市に住んでいて個人経営で海外に日本のレトロ雑貨やアンティークカメラなど輸出しているらしくデザフェスには知り合いが出店するから見に行ったとのこと

「で、そのブース見つかったんですか?」

「いいえ、チャイナドレスのお店やるからおいでって言ってた蘭蘭に連絡つかなくって」

「え!蘭蘭!!」

チャイナドレス屋を営む蘭蘭さんもどうやら繋がっている様子で世間の狭さを実感した。

妹とナルスはすっかり意気投合したらしく連絡先を交換して

「松本に帰ったら逢いましょうねぇー」

などと握手を交わし別れる


BARリセット

伊藤ナルスさんから妹のサキに

「駅前にあるBARリセットってお店で、クランベリーを使ったカクテルのみにドーゾ?」

語尾のドーゾ?は行こうよ!って言いたかったのだろうとサキが判断して僕に伝える。ナルスの日本語はかなり完璧なのだが、たまに接続詞と語尾のニュアンスが本来の意図とは違うような場面があるが、気持ちがこもっているせいかしっかりと伝わるのだろう


「秋斗はモンゴルの出身なんですョ゙」

「へぇーそう言われてみたら、何処となくそんな雰囲気が」

「ゴメンナサイ笑わせようと思ってジョークのつもりデシタ☺」

ナルスは人の笑顔を見るのが好きらしく、自分が体験した出来事や美味しい物を見つけると直ぐに共有したくなるらしい。

「コレ美味しいョーサキも飲んで見る?」

堀金村産の生クランベリーをベースにコアントロー(ホワイトキュラソー)で奥行きを出したカクテルらしい

秋斗のほうはビール党らしく最初は薄めのハートランドビール→麒麟一番搾り→サッポロビール→アサヒ黒生といった具合に味の微妙な違いを確かめるように飲んでいる(彼は元々飲食店に勤めていたので色々な味を楽しむ事が好きなようだ)

僕はサントリーのトリプル生をチョイス


特に会話はしなくても妻のナルスの笑顔を優しく見守っている。とても理想的な夫婦関係のように思える


デザインフェス東京ビッグサイト


皆デザフェスの話でひとしきり皆盛り上がる
「あのアーティストブースが良かった」とか「白いブースに真っ赤な色の使い方が本能を揺さぶる」など様々な視点で語りあう

「秋斗さんデザフェスでは収穫ありましたか?」

「僕は酒の席では基本仕事の話はしないようにしてるんですけどね、フェスで知り合ったばかりなのでそうも言ってられないから正直に言うとデザフェスには青田買いに行ってるんです」

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