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風のように水のようにA(副業のススメ)


 痛い!

「サキちゃん大丈夫?」
「あ、はい」

バイト先で手首をひねってしまった。

どうしよぅ、来週イベントで二胡を演奏しなくてはならないのに練習も中途半端で上手く演奏出来るか不安だわ



ここ3年は何もかも順調だった

友人に誘われなんとなく行った演奏会で二胡の伸びやかな音色に魅了され自分でも演奏したくなり
即購入、これほど没頭出来る時間が人生には存在するのだなって気付いたし、Youtubeを見て独学で学んだから特にお金もかかってないし、二胡を通じて友達も増えた。


ついでに?って訳でもないけど彼氏も出来て順調
で平穏な日々、友人達とも交流が増えたから食事会など付き合いも多くなり出資が増えたのでアルバイトも始めてそれなりにメリハリのある生活はとても楽しくて不満も不安もなかったのだけど、


演奏会


音楽を通して知り合った仲間達で演奏会をやろう!って盛り上がり会場をおさえフライヤーを作り宣伝する

学園祭みたいでワクワクが止まらない!って最初は思ってきたけど、演奏会が近づくにつれて不安になったから、メンバーと打ち合わせを重ねる日々

「みんなに見られるし、ちゃんとやらなきゃね」


演奏の見直しやリハーサルを繰り返し自分のパートだけじゃなく全体的な流れも確認する

「私1人だけの演奏会じゃないから、失敗したら皆に迷惑かかっちゃうもの」

演奏会のメンバーは社会人(勤め人)ばかりなので時間を調整する事が難しい

「サキちゃんごめんね、子供迎えいかないといけないから片付けやれないかも、」

演奏会をやろう!っていい出した妙子さんはいつも明るく元気な主婦でメンバーの中心的存在なのだが、まだお子さんが小さく目がはなせない

「サキさん申し訳ない今日のリハーサル仕事が長引いちゃって行けそうもないので、悪いけど代わりに代奏してもらえる?」

代奏を頼んできたのは地元企業に勤める拓郎さんだ、演奏でリードを勤める役なのだが管理職のためとても忙しい

結局時間に余裕のある私が、様々な役割を皆で平等に分担したはずなのに出来ない人の穴を埋めるべく奔走する日々

「皆忙しいもんね、」

嫌ではなかった。人の世話というかサポートするのは嫌いじゃないし人から頼られる事はなんだかちょっと嬉しいような気もする

充実感

皆でワイワイ1つの目的を共有している事が楽しい
職業や年齢も性別もバラバラだけど、一丸となって演奏会をやる為に貴重なプライベート時間を削りながらその日がくることを待ち望んでいるから

自分の居場所がソコにある

そう感じだしたのもこの頃、誰もがそれぞれの家庭があり仕事仲間などで自分のポジションが人間関係の中で形成されていて〇〇さんから見ての私〇〇君からは仕事仲間子供から見てのお母さん的な役割で自分が存在する。


「今回の私は音楽仲間から見て頼れる人なんだわ」

日々充実を感じていたのだけど、、、


荷物の仕分け作業のアルバイト

登録制の派遣会社は1日の労働時間が短く時給もソコソコ良い希望シフトなので自分のペースで働けるから気楽に勤めれたけど、派遣先によっては重たい荷物も運ばなければいけなかったり思ったより体力勝負な仕事が多い

痛い!

「サキちゃん大丈夫?」 
「あ、はい」

不慮の事故というほどではなかったけど手首をひねってしまった。派遣の契約上、明らかな怪我でなければ労災はおりないから自己責任となる

「まぁ、ひねった程度だし」

翌日腫れ上がった右手 

「どうしよぅ、演奏会こんなんじゃ練習も出来ないわ」


悪循環

バイト先から連絡が来て週末他のスタッフがインフルエンザにかかり休みとなり、出勤を迫られるも手首の捻挫で仕事にならないと説明したら、シフト担当者から

「仕方ありませんね、」 

と言われる

いたわってほしい理由ではないが、お大事に程度の言葉はあっても、良いのでは?とジワジワ怒りが込み上げてきた


演奏会の準備もスタジオには顔を出したが、二胡が弾けず代奏ももちろん無理、何も出来ないから帰ろうとした所妙子さんが話す

「サキちゃん、チケットどう?」

「え?私チケット管理してませんょ?」

「私達忙しいから皆で割り振ってサキちゃんにお願いしたはずよ!」

「え?」

 
なんで私ばっかり……

「あー嫌、なんでもかんでも、私ばっかり!!」

壊れた蛇口のように感情が抑えられず大声で叫ぶ
  
「あー嫌、もう嫌、」


BARリセット


スタジオを飛び出し駅前をふらふらと歩く。リセットという名前に惹かれ、入った事もないBARで
カシスオレンジを飲んでいる

「すいません、もっとタンサンをキツめにお願い出来ますか?」

カシスオレンジには本来炭酸は入っていないのだが、BARのマスターが薄く微笑みながら

「お客様、頭をスッキリさせたいなら、カシスオレンジにジンジャーエールを入れると良いです」

試しに飲んでみたら、なかなか好みの味だったからおかわりを続ける

「マスターこのカクテル美味しいです、」

マスターは目を細めながら軽く頭を下げて

「カクテルってバランスが取れていないとすっごい不味いんです。 人生と同じでね」

「へぇ~」

「甘いジュースと辛口の炭酸適度のアルコールのように、甘過ぎる優しさと適度な刺激そして、」

「そして?」

「なんだと思います?」

「アルコール!」

「ソレはカクテルの方です」

元気よく答えた自分が恥ずかしい…

「へへ、ちょっと難しいなぁ〜」

「そうですね、人生なんて真剣に向き合っても上手く行くとは限らないですし、適度にやってても上手く行く時もあります。」


アルコールのせいなのか肩の力が抜けて、今日のモヤモヤも炭酸のように弾け飛んだように思える

「ごちそうさまでしたぁー☺」

お会計を済ませお釣りをもらった時に名刺のようなサイズの黄色い紙をもらった

「コレは頭の整理をしたい時に使用して下さい」


相談屋


翌日二日酔いにはならなかったが、バイトにも、スタジオにも行く気持ちにはならない

「私の居場所が、無くなっちゃったかも」

耳の奥のほうでじんわりと痛みを感じる

バイトに行ったとしても、また手首を捻挫する可能性だってある、本業にしたいと思うけど二胡演奏での収益なんてスズメのなみだほどだしレッスン教室を開業したとしてもマイナーな楽器なので
生徒さんもすぐ集まるとは思えない

昨日BARリセットでお会計の時もらった黄色い紙がテーブルの上に小銭と一緒に置いてあるのが目に入った


「相談屋こまわり
頭の整理のお手伝いします」

相談屋の名刺 裏側にQRコードがある
スマホで読み取ると四柱神社の側にある喫茶店で


 「ユーフォークッキーと葡萄ジュースを2人分頼んで下さい。」と指示がある


なんか恥ずかしいなぁ〜


結局、四柱神社でお参りを済ませついでに喫茶店へ行く事にしたのだけど、

「あくまでツイデだから、」

自分に言い聞かせる。指示通りに動くことに何だか不満?というか子供の遊びに付き合っているみたいでしゃくにさわる

喫茶ニューマロン



ニューマロン?

かつてマロンというお店があって、新しくリニューアルしたからニューマロン?なのかな

カウンターに座り

「すいません!フォーチュンクッキーと葡萄ジュース下さい!!」

と頼むとお店の主(マスター)と思われるおじさんが、笑いを堪えながら、

「お客さんユーフォークッキーの事かな?」

と肩を揺らしながらジュースを運んできた


元気いっぱいにフォーチュンクッキーと言ってしまった私、恥ずかしさが込み上げる

マスターが腕時計をチラっと見ながら

「3.〜2〜1  はい登場! 」と言って入口を指指すと 子供?素早い動きで女の子が現れた

「私です!ごきげんよう☺〜」

黒髪おかっぱ頭黒スーツに赤いマフラーの女性が両足の踵をピタっと合わせ姿勢よくお辞儀をする

最初は子供かと思ったが、スーツ姿とお辞儀の所作がとても丁寧で大人である事が認識された


「始めましてぇー相談屋奥野ツバメと申します、

座右の銘は
 
旅は道連れ世は情 情は人の為ならず!でございますーん」


すーんって言われてもちょっと反応に困る、こんな人に相談して本当に大丈夫なのかな?


続け






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