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浮世絵を彩る江戸の花たち
その日、図書館の分類番号470の書架の前で植物図鑑を開いていたウサギは、ふとした疑問に心を奪われた。
「今は植物園やお花屋さんで、いつでも花に会えるけれど、江戸時代の人たちも、花を愛でることは出来たのかしら?」
ウサギが首を傾げていると、ちょうどカメが通りかかった。「江戸時代の植物のことが気になるなら、いい場所があるんだ。一緒に行ってみない?」
二人は図書館を出て駅へ向かい、土呂駅で改札を抜けた。案内表示に従って歩いていくと、やがて大宮盆栽美術館の風情ある建物が、二人の前に姿を見せた。
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二人は胸を躍らせながら、企画展示室の扉を開けた。室内には浮世絵がひっそりと並び、江戸の香りを漂わせていた。
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「実は、江戸時代は空前の園芸ブームだったんだよ」と、カメが穏やかに話し始めた。
「大名たちは、まるで『うちの庭が一番だ』と言わんばかりに、競って大きな庭園を造っていたんだ」
「それがやがて庶民にも広がり、花を愛でることが江戸の人々の日常に溶け込んでいったんだよ」カメはまるでその時代を生きていたかのように目を細めて語った。
「これは『ものづくし絵』といって、子ども向けに作られた図鑑のようなものなんだけど、すべて鉢植えに描かれている」
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「どうしてなの?」とウサギが首をかしげると、カメは微笑みながら答えた。「当時は植木鉢そのものが、植物と一緒に楽しむ大切な要素だったんだよ」
「確かに、ずいぶん凝ったデザインもあるのね」と、ウサギは感心した様子で展示に目を留めた。「植木鉢を楽しみにしていた人たちの気持ち、なんとなくわかる気がするわ」
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「浮世絵に一番多く描かれているのは菊で、その次に松、万年青、梅が続くんだよ」と、カメは静かに語り続けた。
「ずっと絵を見ていたら、本物のお花に会いたくなってきたわ」ウサギはそっとカメの腕に自分の腕を絡めた。「次のお出かけは植物園で決まりね!」ウサギはねだるように上目遣いで彼を見つめた。