たいていの道は 初めての道
その日、ウサギとカメは元町・中華街駅に降り立ち、港が見える丘公園へと続く階段を一歩ずつ登っていた。公園の展望台を通り過ぎ、やがて小さな橋を渡る。そして、二人は目的地にたどり着いた。
二人は「古田足日のぼうけん」の世界にそっと足を踏み入れた。「どうしても、ここに来たかったんだ」カメが静かにそう呟くと、ウサギはその声に引かれるように彼の方を振り向いた。
「見て、ロボットカミイだわ!」ウサギの目が輝いた。「この絵本、子どもの頃からずっと大好きなの。カミイが友だちだったら、どんなに楽しいだろうって、今でも思ってるんだ」彼女は少し照れくさそうに笑った。
「僕、『おしいれのぼうけん』が好きだった友だちのこと、まだ覚えているよ。怖がりながらも、一緒に夢中になって読んでたんだよね」カメは懐かしそうに微笑んだ。
「古田足日さんって、子どもの心をとても巧みに描いているんだよね。だから、彼の物語は今でも子どもたちに愛されてるんだ」と、カメは静かに語り続けた。
「子どもでいられる時間って、本当にあっという間だわ。でも、子どもの頃に出会った本は一生心に残るのよ。大人になっても、その本がずっと力をくれるんだから」と、ウサギはじっと展示を見つめながら呟いた。
「実はね、僕、古田足日さんにお会いしたことがあるんだ。お宅にお邪魔したことがあってね。本当に優しい方で、書庫にはびっくりするくらい本がたくさんあったのを覚えてるよ」と、カメは懐かしそうに語った。
「それで、また会いたかったのね?」ウサギは彼の瞳をじっと見つめた。「その時、書いてもらった色紙、ずっと僕の宝物なんだよ」カメは静かに彼女の目を見つめ返した。
文学館を後にし、再び港が見える丘公園へ戻ると、あちこちで子どもたちが楽しそうに遊んでいた。二人は、かつてダンボールでロボットカミイを作った頃を思い出し、そっと優しい笑顔を浮かべた。