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春風が愛でる青梅路

春の柔らかな陽射しのもと、新しいシューズを足にしたウサギとカメが、人々が集まるスタート地点に静かに立っていた。他のランナーたちも、それぞれのドラマを胸に抱き、緊張と期待で息を潜めていた。

ランナーの列の先頭に立つウサギの視線は、遥か前方に固定されていた。彼女にとって、タイムや順位は意味をなさない。ただ精一杯走ることが全てだった。それでも心の片隅では常にカメのことがちらついていた。「カメくん、ゴールで待っているからね」と、彼女は心の中でつぶやいた。

カメはウサギから遥か後方にいた。彼の心は静かだが、深く波打っていた。このレースは彼にとってただの競争ではなく、今を切り取る大切な瞬間だった。「ウサギさんが怪我なく走り切れますように」と、カメは彼女のために静かに祈った。

青梅マラソンは前半が上りの往復コースだ。前半の上り坂は心を試すものだったが、後半の下り坂は、重力が増したかのように足を地面に縛りつけた。それでもカメは一歩一歩、確実に自分のペースを守り続けた。21キロ地点で、ランナーに声援を送る高橋尚子さんとハイタッチを交わした時、彼はウサギの待つゴールに必ず辿り着くと決意を新たにした。

満身創痍でゴールに倒れ込んだカメの元に、完走メダルを首にしたウサギが駆け寄った。この瞬間、ウサギにとっては彼のゴールが全てだった。彼の様子を伺いながら、ウサギは青梅マラソン名物の梅干しのおにぎりを優しく手渡した。

ウサギの瞳には、カメの勇気と決意、そしてその達成への喜びが映し出されていた。彼がゴールにたどり着いた瞬間、二人の間には語られなかった多くの言葉が、それぞれの胸の奥底に優しい音色を奏でていた。

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