乙女心と秋の空
秋空の下、ウサギは心にぽっかりと穴が空いたような、少し寂しい気持ちを抱えていた。田中達也展の会場に入っても、その寂しさは消えず、まるで忘れられた荷物のように心の片隅に残っていた。
「ミニチュアの一つ一つが、夏の終わりと秋の気配をそっと教えてくれる気がするわ。ミニチュアって、どうしてこんなにも儚い表情をしているの…」ウサギは小さく息を吐きながら、ゆっくり髪をかきあげた。
「私はきっと旅に出るの。まだ見ぬ未知の国々へ。お皿の上のエビフライみたいに、ふんわりと空を舞ってね」
「もしかすると旅の始まりは夜のドライブかもしれない。対向車のヘッドライトに照らされながら、日常からさりげなく脱出するの」
「そうなったら、きっと向かう先は温泉よ。熱いお湯に浸かりながら、新しい自分に生まれ変わるの」
「もちろん、美味しい食べ物のことは忘れてないわ。まだ何を食べるかは決めてないけれど、その場所に行けば、自然と何かが私を引きつける気がするの」
「私、一人旅なんてできないの。寂しさに耐える自信がないから。だから、あなたも一緒に来て。ねえ、カメくん、聞いてる?」
「いや、二人きりでそんな遠くに行ったら、きっと緊張しちゃうよ」カメはほんのり頬を染めた。
「もう、せっかくいい夢見てたのに、目が覚めたらお腹すいちゃったわ。こうなったら食欲の秋を思いっきり楽しむわよ!」
「やっぱり、まずはお寿司よね。新鮮なネタをお腹いっぱい食べるわよ!」
突然ウサギの態度が変わったのを見て、カメは静かに後ろへ一歩下がった。それに気づいたウサギは、ハッと我に返って、苦笑いしながらカメの袖を掴んだ。
ウサギは、どこか切なげにカメの瞳を見つめながら、小さな声で言った。
「やっぱり、私、旅に出たいの……」