銀杏並木にそっと願いを
独り歩くウサギは、気づけば神宮外苑へと足を向けていた。いつも隣で微笑んでいるはずの人が、今日はそこにいない。足元で落ち葉がカサリと音を立て、その音がいつもより少し大きく胸に響いていた。
「寒いわね」
冬の匂いを含んだ風が、容赦なく体の熱を奪っていく。思わずポケットに手を差し込むと、視界の先に銀杏並木が見えてくる。
銀杏並木を背景にして、女の子たちが楽しそうにポーズをとっている。その風景をぼんやりと眺めているうちに、ふとカメから届いたメッセージを思い出した。
「急に外せない用事ができてしまって、本当に申し訳ない。でも、君だけでも展覧会を楽しんできてほしい」 その言葉が、未だに消えない影を落としていた。
二人がけのベンチに腰を下ろした瞬間、その広さにふと驚きを覚える。思いがけず冷たい風が頬をかすめると、胸の奥に秘めていた思いがふっと溢れ出した。
「どうして私を一人にするの…」
カメといる時間がどれほど心地よかったのか、彼女は今になってようやく気づく。もっと早くその大切さに気づけなかった自分が、ほんの少しだけ悔しくなる。
「元気出さなきゃ」
ウサギは寂しさを振り払うように、そっと地面にしゃがみ込むと、銀杏の枯葉を一枚、また一枚と静かに拾い集め始めた。
掌に集まった枯葉に向けて、ぎこちなく笑みを浮かべると、今度は一枚、また一枚と丁寧に並べ始める。
「早く会えますように…」
ウサギは小さなハートを見つめながら、心の中で静かに祈りを込めた。
その時だった。祈りが届いたように、スマホが小さく震えた。
「今どこにいる? やっぱり会いたくて…」
画面に浮かんだ文字は、涙のせいか少しぼやけて見えた。
「来てくれるって信じてた」
胸の奥でふわりと小さな光が灯り、その温もりが静かに広がっていく。
「ありがとね」
ウサギは枯葉で作ったハートに、心の中でつぶやいた。抑えきれない喜びが頬を緩ませ、自然と笑顔がこぼれる。
ウサギは勢いよく立ち上がり、そのまま約束の場所へ駆け出した。足元で枯葉が軽やかに音を立て、銀杏並木は彼女の背中をそっと見守るように揺れていた。