地下都市を走る風
図書館からの帰り道、ウサギは駅へと急ぐ足をふと止めた。見慣れたはずの街並みが、いつもと少し違って見えたのだ。
「なんだろう、この感じ。今まで全然気にしてなかったけど、マンションの形とか、お店の看板とか、街全体にデザインが溢れているように見えるわ」
ウサギの言葉を聞いて、隣を歩いていたカメも足を止めた。「公共の空間をアートの舞台に変えた展覧会があるんだけど、今からちょっと見に行ってみない?」
二人は外苑前で電車を降り、ワタリウム美術館へ足を向けた。館内に足を踏み入れると、いつも見ているはずのものが、まるで違う表情で展示されていた。
「この絵、落書きがモチーフなのね。私、ビルの外壁に落書きがあると、つい目がいっちゃうのよね」ウサギは絵を見つめながら、小さく笑った。
「この絵には工事中の看板が集められているけど、こうして並べてみると立派なアートに見えるね」カメはピクトグラムの微妙な違いにじっと目を凝らした。
「見て!このヘッドライト。こうやって飾られると、いつもとはまるで違って見えるわね」ウサギは珍しそうにライトを見つめた。
二人は4階に辿り着いた。そこでは、大小5つのスクリーンに、3人のスケーターが地下世界を疾走する姿が映し出されていた。
「東京の地下空間をスケートボードで疾走するなんて、すごくカッコいいわ。誰も知らない暗闇の中を、ライトひとつで走るなんて、私もやってみたい!」ウサギは興奮で体を小さく震わせながらつぶやいた。
「普段入れない地下の空間は謎に包まれているよね。この映像を見ていると、まるで地下に巨大な都市が広がっているみたいだね」と、カメが言葉を続けた。
「地上の世界も、地下の世界もアートな空間ってわけね。街を歩くときの意識が変わるわ」ウサギは窓に駆け寄り、外の街並みを眺めながら、そっとつぶやいた。