甘い冒険の予感
その日、ウサギは図書館の閲覧席で外国の旅行ガイドを眺めていた。まるで子どものように楽しそうにページをめくる彼女を見て、カメは静かに問いかけた。「外国に絶対に持って行くものが何か、知ってるよね?」
「お金とお菓子ね」ウサギは迷わず答えた。その即答ぶりに、カメは思わず吹き出しそうになったが、彼女らしいなと思い、心の中でそっと微笑んだ。
「何か、もっと大切なものを忘れてない?」とカメは優しく促した。「空港でのことを思い出してみて」 ウサギははっとして、「パスポートね!」と、顔を輝かせた。
「パスポートのこと、詳しく知っておいた方がいいよね。そういう場所があるんだけど、行ってみない?」二人は図書館をあとにして、駅へ向かった。
展示室に入ると、資料を見つけたカメが説明文を読み始めた。「日本で初めて旅券が発行されたのは1866年。江戸幕府が日本人の海外渡航を許可した時なんだね」
「現存する最古の旅券は曲芸師に発行されたものらしい。当時は写真がまだ珍しかったため、体の特徴が細かく書き込まれている」
「旅券が冊子状になり、写真が貼られるようになったのは1917年から。第一次世界大戦の中、身分証明書として必要になったのがきっかけだったのね」ウサギはカメの隣に立ち、興味深そうに資料を見つめた。
「でも、国交のない国でもパスポートって使えるのかしら?」ウサギは、ふと浮かんだ疑問を口にした。「国交がないなら、やっぱり行くのは難しいわよね?」
室内には外交文書が整然と並び、長い歴史の中で繰り返されてきた交渉と選択の積み重ねが、今の自由な海外渡航を可能にしていることが、深く心に響く。
「これを見たら、もう大丈夫ね。外国にも安心して行けそう」ウサギはふわっと微笑んで、カメに顔を向けた。
「さっそくお菓子を用意しなくちゃ!」 カメが黙って目を細めるのを見つめながら、彼女はいたずらっぽく笑った。
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