幸せになるための魔法
その日、ウサギは図書館の分類番号597の書架の前で、ページをめくりながら、小さなため息をついていた。「こんな風に、お洒落に暮らしたいんだけどね…」
そのつぶやきが、ちょうど通りかかったカメの耳にふわりと届いた。「生活空間のデザインに興味があるなら、ちょうど今、面白い展覧会をやっているよ」 カメは穏やかな声で、そっとウサギを誘った。
「コンランは、ホームスタイリングを提案するショップ『ハビタ』からデザインを始めたんだね」カメは静かに展示を眺めた。
「ハビタは、ただ物を売るだけじゃなく、暮らしのお手本を提供していた」壁に書かれたコンランの言葉がウサギの胸に刺さる。
「素敵なものに囲まれて暮らすことが幸せだって、コンランは気づいていたのね」
階下へと続く階段に差し掛かると、ウサギはふと足を止めて天井を見上げた。
「この照明、お洒落ね。デザイン展を見ているから、感性が研ぎ澄まされた気がするわ」
「コンランがこんなことを言っていたよね。『どこで、どのように暮らすかが、私たちの幸福や創造性に大きく影響する』って。やっぱり、生きる環境を選ぶことってすごく大切なんだね」カメはウサギに話しかけた。
「それで、コンランの創造性は街づくりにも活かされたのね。建築家と組んでロンドンの街並みを変えていったなんて、本当にすごい情熱だわ」
「驚いたのは、二子玉川の開発にも関わっていたことよ。いつも行く場所に、彼のデザインが息づいていたなんて」そうつぶやきながら、ウサギは興味深そうに展示を見つめていた。
「デザインの視点で身近なものを見直してみるのもいいかもね」カメがそう呟くと、ウサギは嬉しそうにくるりと振り向いた。
「私に任せて!あなたの生活、私がデザインしてあげるわ。今日しっかり学んだから、さっそく実験開始よ!」
「ぼ、僕で試すの?実験台は別の人のほうがいいんじゃ…」カメが一歩後ずさると、ウサギはその袖をぎゅっと掴んだ。そして、まるで何かいたずらを思いついたかのように、にっこりと微笑んだ。