うさぎか、それ以外か
その日、ウサギが図書館の閲覧席に座ると、いつになくすぐにカメと目が合った。「ずっと待ってたよ」と、カメは優しく微笑んだ。
ウサギが驚いて口を開きかけると、カメはそれを遮るようにそっと彼女の手を取り、迷いなく出口へと導いていった。
浅草橋で電車を降りても、カメはウサギの手を引いたままだった。「どこに行くの?」彼女が尋ねても、カメは「もう少しだから」と、同じ言葉を繰り返すばかり。ウサギは黙ってついていくしかなかった。
「ここだね」とカメがビルを見上げた。二人はエレベーターに乗り込んだ。五階に着いてドアが開いた瞬間、ウサギは思わず息をのんだ。「驚かせたかったんだ」と、カメは少し照れくさそうに笑った。
その部屋は、まるで「うさぎ」で作られたかのようだった。見渡す限り、うさぎ、うさぎ、うさぎ…。まるで世界にはうさぎしか存在しないかのように、うさぎだけの空間が広がっていた。
「こんな場所があるなんて、驚きだわ」と、ウサギは壁一面に並んだパネルを見渡しながらつぶやいた。「でも、うさぎの可愛さよりも、写真を撮った人の愛情が伝わってくるのは、気のせいかしら…」
「この写真、秋を感じるコーディネートがとっても素敵ね。ハロウィンの雰囲気にもぴったりで、すごくおしゃれだわ。私、ちょっと負けた気がする…」
「うさぎグッズもすごいわね。ぬいぐるみにアクセサリー、それにうさぎのイラストを描いてる人のグッズまであるのね」
「それに、ちょっと声に出すのがためらわれるようなものまで揃っているなんて、もう理性が追いつかないわ」
「そして、極めつけはこれね。ここまでウサギが好きだなんて、もう何と言えばいいのか分からないわ」
ウサギは、くるりとカメの方を振り返った。「でもね、私も、こんなふうに言われてみたいかも」と、ウサギは小さく微笑んで、じっとカメを見つめた。