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千尋、夢を叶える。〜大相撲観戦記・1日目〜
櫓太鼓の音で涙が出た。
本当に、やっと、両国国技館に来れたんだなと。
開場待ちの列の中で涙を拭った。
職質されなくてよかった。
浅草寺の裏のホテルに宿泊した。
朝の7時過ぎに出発する。
浅草神社と浅草寺を参拝して、
シャッターの閉まる仲見世通りを通る。
参拝の方や、朝の散歩やランニングの方、通勤や通学の方で意外にも人がいる。
雷門から外界に出る。
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それから吾妻橋を渡り、隅田川の左岸を歩く。
隅田川のキワを歩きたいけど行き方がわからないなあと思っていると、道路の一段下にスッと降りていく通勤途中のおじさんがいる。
おじさんについていく。
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方向音痴の私だが、このようなおじさんや、行き先が有名どころなので看板表示が行く先々にあり、迷わずにズンズン進む。
蔵前橋のあたりで道路に戻る。
両国国技館がもうすぐだ。
信号待ちをしていて、ふと視線を進行方向に向けると、
日本国旗と日本相撲協会のロゴマークの旗がはためく。
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「すぐそこなのか」と緊張を覚える。
私は両国国技館のあの黄緑色の屋根を見たら、たぶん泣いてしまうだろうと前々から思っていた。
もうすぐ屋根が目に入る。
いまのところ、涙が出るような心情ではないのだけれど、どうなってしまうのだろうという緊張だ。
黄緑色の屋根が目に入る。
どんどん大きくなっていく。
しかし、涙は出なかった。
涙が出るときというのは、寝不足や疲れなどで心が揺さぶられやすいときが多い。
ぐっすりと睡眠をとったから、涙が出ないのだろう。
8:10頃、入口に着く。
おじさんが一人並んでいる。
並んで良いものでは無いのかなと思い、しばらくうろうろすると、次々と人が列に追加される。
並んで良いものなのだなと私も加わる。
開場直前、櫓太鼓が鳴り始める。
その音が肌と体に振動を伝えて、心の琴の糸にも振動を与える。
涙が出てきた。
心が震える。
やっと、やっと来れたんだと。
やっと両国国技館に来れたんだなと。
列の中で眼鏡を外し、ハンカチで涙を拭った。
このタイミングだとは想定外だった。
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それ以降も、すべての目に入るものや聞こえるものに感動する時間を過ごした。
静かに興奮し、マスク内の口は終始あんぐり。且つ、顔はニヤついている。
法被を着た関係者に迎え入れられ、国技館へ入る。
賜杯や内閣総理大臣杯などが展示されている。
2階に上がり、向正面のS席1列9番に座る。
想像していたよりも土俵が近い。
取り組み中にわさわさとした砂の音がする。
この座席料は9,000円とお高めに感ぜられるだろうが、
これから18時過ぎまでの約10時間は国技館に滞在でき、ここで相撲をずっと観られる。
それでいて1時間あたり1,000円を切るのはコスパ最強なのではと考えていたりした。
昼食にはちゃんこと焼き鳥、シウマイを食べた。
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おやつにはひよちゃん焼を。
短時間での飲食は座席でも可能だ。
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人気力士が呼び出されると大きな拍手が湧く。
勝負審判の二所ノ関親方が紹介された際も盛大な拍手が湧き上がる。
そんなこともあるのか。
この日に長年の夢が叶った。
観戦の際にはテレビに映る座席の場合は何の服を着ようかと家族と協議したり、
力士全員推しの私ではあるが、近所出身の力士の四股名をスケッチブックに筆で書いて持って行ったほうが良いよねとか、
まだ感じたことの無い匂いや音、迫力を夢見ていた。
私の夢はたくさん叶う。
学生の頃からの夢であるカフェを開業したこともそうだ。
しかし、まだまだ夢はある。
アメリカへ行って大谷翔平選手が出場の試合を観戦したい。
いつかチヒロ製作所で化粧廻しを作ったり、懸賞を出せたら面白い。
国技館の扉が開放されているので、1階からの景色が通路からちらと見える。
土俵がとても近い。
通路からこれならば、タマリ席は一体どんな迫力になるのか。
次はタマリ席に座ろうという夢もできる。
これから平日の仕事でやっていきたいこともたくさんある。
夢は尽きない。
現役力士や親方が選ぶ飲食店で行きたいお店が3店舗あった。
すべての飲食店が予約でいっぱいだったので、またいつの日にかのお楽しみにした。
ホテルで初めてのバーガーキングを食べる。