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『ゴジラ-1.0』について02 山崎監督が採った手法

大江山 いく野の道の 遠けれ ばまだふみもみず 天橋立

 これは小倉百人一首に収められた小式部内侍の有名な歌だ。掛詞を巧みに使い、和歌として整った美しい表の意味と、歌合せの控えの間で小式部内侍をからかった藤原定頼に対するカウンターパンチ的主張の意味とがほぼ不自然さを伴わずに調和していることが特筆に値するというのが一般的な評価だろう。私もそう思う。エピソードの真偽はともかく、とても美しい姿の歌だと私も思う。

 山崎監督がやろうとしたのは、まさにこの手法である。「ゴジラ」という既成の有名フォーマットを使い普通に観て深く楽しめるストーリーを織り成した上で、裏でほとんど不自然さを感じさせない範囲で強い主張を表明する。そういう手法を高い次元でやったのだ。小式部内侍の歌がそうであるように、映画中の様々な物や人に二重の意味が掛け合わされている。

 掛け合わされているという言い方が分かり難いなら、映画に描かれる様々な人物や事柄が2つの意味を持たされていると言ってもいい。○○を象徴していると言い換えてもいい。いずれにしても、裏に隠された方の意味こそが、山崎監督が世界に示したかったものである。 


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