【短編哲学小説】窓しかない部屋
私は窓の外に繰り延べたカーペットに並んだ自作の彫刻たちを眺めている。
ひとつひとつの作品には思い入れがあり、それらを鑑賞者たちが色々と批評してくれるのも楽しいものだ。
この窓辺にいるかぎり、私は彫刻家なのである。
しかし、別の窓から外へ繰り延べたカーペットには、絵画を並べてある。そこにも多くの鑑賞者がいて、私は画家になれる。
また別の窓から外を見ると、書棚が置いてあり、そこには私の書いた小説が並んでいる。その窓辺にいるかぎり、私は小説家である。
窓の外は広い空間である。多くの窓があってそこから人々が外を見ている。ひとりひとりに窓があるようだ。
私は窓の外ばかり見ているのではなく部屋の中を見てみようと思った。窓から視点を転じて窓のこちら側へ・・・。
しかし、床だと思ったらそれは窓の外にあった。
しかも、私は下を見たつもりが下ではなく正面だった。
では天井は?
天井も窓の外にあった。
しかも、私は上を見たつもりが上ではなく正面だった。
向いた方向が正面になってしまうようだ。そして、そこには必ず窓がある。幾つも窓があり、それらは並んでいるのかと思ったら、そのようではなく、私の向いた方向にすべて窓があるようだ。そこは窓に囲われた部屋ですらなかった。
では私はどこにいるのか?
なんのことはない。
私も窓の外にいた。
(了)