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哲学書のすすめ。ニーチェ『ツァラトゥストラはこう言った』

私が強く影響を受けた哲学書にニーチェの『ツァラトゥストラはこう言った』がある。
これは大学の図書館で借りて読んだと思う。
岩波文庫で上下二巻だったと思う。
手元にないので、思い出しながら書きたい。
この本と言うか、ニーチェの哲学を紹介したい。なぜなら、私にとって『ツァラトゥストラ』の内容は遠い昔の記憶になるので、ニーチェの哲学を紹介することが、彼のこの主著を紹介することになると思う。
ニーチェが哲学史的に画期的だったのは、それまで、ソクラテス以来、「良く生きること」を考えるのが哲学のひとつの目的であった。しかし、ニーチェは違った。「強く生きること」を主張した。
『ツァラトゥストラ』の最初のほうで、こんな場面がある。
ツァラトゥストラは綱渡りをしている。前を行く者が綱から落ちそうになっている。「た、たすけてくれぇ!」
ツァラトゥストラはどうしたか?
彼は笑って、落ちそうな者を飛び越えて行った。
これがニーチェの思想で一番重要な部分だと思う。
この「笑い」の考察は、世間にある笑いを見ると、このような性質があるのではないか?
つまり、罪の重さに悩んでいる人がいる。強い者はその罪を笑って飛び越えていく。
私は高校生の頃、仏教の影響を受け、「一寸の虫にも五分の魂」を真剣に考えていて、ゴキブリを殺した自分を深く責めていたことがある。その結果、精神を病んだ。そんな私にとってニーチェは衝撃的だった。
仏教とニーチェは深く関係がある。
そもそも、ツァラトゥストラという人物名は、ペルシャの宗教ゾロアスター教の教祖ゾロアスターをドイツ語読みしたもので、実際のゾロアスターの思想は無視されているはずだ。しかし、ニーチェが東洋思想に影響を受けたことは間違いなく、彼の言う、「永劫回帰」とか「能動的ニヒリズム」は仏教というか、インド思想から得たアイディアだと思う。
「永劫回帰」はインドの輪廻の思想の影響だと思うし、ニーチェはこれを、「人間の人生は死んだらもう一度生まれたところから永遠に繰り返す、だから悔いのない人生を生きねばならない」と訳したのだ。たぶんデジャビュの経験もそのアイディアのヒントとなっただろう。
「能動的ニヒリズム」は、「人生には意味はない、よし、もう一度」と言って、すべてに価値はなく、価値は自ら創るものであり、自分で自分の人生に意味を見い出していく、というものだ。そのためには強く生きねばならない、とニーチェは言う。
また、別の本だと思うが、彼は「深淵を見つめる者は見つめ返される」という言葉を残している。
宗教などにハマって、真実を見つめていると人生においてその真実に囚われて生きづらくなる、と言うのだ。
ゴキブリを殺して悩んでいた私がまさにそうだった。
だから、ゴキブリを殺して笑って生きることこそが大事なのだとニーチェは言っている。
誰かが困っていてもその人に手を差し伸べるよりは、笑って飛び越えて生きていく強さを身につけろとニーチェは言うのだ。
世界には困っている人がたくさんいる。その人たちを放っておいて自分は幸せになっていいのか?というふうに考えた平和でおカネのある国である日本の若者は私だけではないだろう。しかし、世界には不幸な人がいるのに、私は幸せになっていいのか、というのもおかしな話だ。それでは世界中の人が幸せになるまで、ずっと私は幸せになれない。つまり死ぬまで幸せになれないのだ。大乗仏教の思想がそうだと思う。
まあ、仏教の話はあまりしないでニーチェの話にしたいが、この仏教とニーチェの間で悩んだ日本の小説家が、芥川龍之介だと思う。
彼の『羅生門』『蜘蛛の糸』などはニーチェの影響をもろに受けている。芥川はニーチェに対しては否定的だ。
このように西洋哲学を知ると、日本の近代文学を読む手助けにもなるところが面白い。
話が逸れたか。
で、ニーチェの哲学の中心概念に「超人」がある。
自分の価値観を押し通して強く生き抜いた人のことだ。
たしか、ニーチェは超人の例として、ナポレオン、ゲーテ、キリストなどを挙げている。例が三名しかないのは私の記憶不足だ。ナポレオンは皇帝になった強い人だし、ゲーテは若いときは「人生は恋だ」と言って人が羨むような青春を謳歌し、晩年は『ファウスト』にあるように「人生の目的は事業を完成させることだ」などと言っていて、その強い生き様は、西洋の文学界思想界に大きな足跡を残している。しかし、キリストは弱く、処刑された人間のように見えるが、ニーチェによると、キリスト教徒は弱い人間だがキリスト本人は自分の信念を貫いた強い人間であるらしい。
キリスト教の価値の揺らいだニーチェの時代、倫理的真実も不確実になって、ついには自分自身しか信じるものがなくなったのかもしれない。
「能動的ニヒリズム」「永劫回帰」「超人」この三語をキーワードとして、ニーチェを読み、世界を見てみたら面白いかもしれない。

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