【長編小説】『アトランティス世界』5
五、 荒天
翌日は霧が濃かった。一日中霧は晴れなかった。
夜中、波が荒れてきた。ガラパゴス博士とマイル少年は寝室でベッドにしがみついていた。デッキの方で「おーい」という声が聞こえたような気がした。しかし、ふたりとも恐ろしくて寝室から出ようなどとは思わなかった。船がひっくり返るくらいに揺れた。
結局、ガラパゴス博士とマイル少年は一睡もできず朝を迎えた。嵐は止んでいたが外は濃い霧だった。ふたりはジョン船長を探した。しかし、いなかった。ハックとドギーを探した。しかし、操舵室にも厨房にも船室にも船倉にもどこにもいなかった。
「博士、いったいこれはどういうことでしょう?」
マイル少年は心配になって訊いた。
「わからない。昨夜の嵐で三人とも海に投げ出されてしまったか?」
「そんな」
ガラパゴス博士は耳を澄ませた。
「船のエンジン音がしない」
「壊れたんでしょうか?」
「わからない。とにかく操舵室に行ってみよう」
ふたりは操舵室に入った。無線でどこかに連絡しようとしたが、ガラパゴス博士もマイル少年も無線機の使い方など知らなかったし、どうも機械が壊れているようだった。
他の機械も見た。機械のひとつに船の現在地を示すものがあった。
「北緯四十五度西経三十五度」
ガラパゴス博士は不安な顔で言った。
「私たちは船員を失って、素人だけで大西洋の真ん中に置き去りにされてしまったぞ」
マイル少年は絶望的な顔で言った。
「ジョン船長たちは死んでしまったのでしょうか?」
「わからん。マイル君、絶望してはいけない。私たちにできることを考えてみよう。冷静になるんだ」
「はい」
「船倉と厨房の冷凍庫と冷蔵庫を見るんだ。食料があれば漂流しているうちにどこかの船に出会うかもしれない」
「わかりました」
「私はもう少し、ここの操舵室の機械をいじってみる」
「じゃあ、僕は船倉と厨房を見てきます」
マイル少年は階段を降り厨房に入った。冷蔵庫には野菜やパン、飲み物が入っていた。冷凍庫にも肉や魚が入っていた。冷蔵庫も冷凍庫もまだ電気が通っていて無事だった。船倉にはさらに充分な食料と水などの飲み物があった。
ガラパゴス博士は機械をいじったが、まったく動かなかった。GPSの現在地を表すデジタルが北緯四十五度西経三十五度を表示していた。
「博士、食料と水はたくさんあります。機械の方はどうですか?」
「ダメだ、さっぱりわからない」
「でも、海面を見るとなんだかこの船、進んでいるみたいですよ」
「進んでいる?どっちに?海流があるからメキシコ湾流に乗って東へ進んでいるのか?」
ふたりはコンパスを見た。マイル少年は言った。
「西へ進んでいるみたいですね」
ガラパゴス博士は言った。
「ああ、とにかくこの霧が晴れれば」
ふたりはそれから何日か船の中でふたりきりで過ごした。船の場所は北緯四十五度西経三十五度のままだった。
「動いてないんですかね?」
「うむ、だが、船の舳先を見ると海面を切って進んでいるように見えるが・・・」
ふたりは舳先から進行方向の西を見た。すると、霧が晴れてきた。そして、視界がよくなってきた。ふたりは抱き合った。
「博士!」
「マイル君!」
なんと、進行方向に陸地が見えてきたのだ。
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【長編小説】アトランティス世界
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