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【超超短編小説】超必殺!海雲台ブルー拳
ヤンがクリスマスの日に同期の遺体を運んでから20年が経とうとしている。
ジョーはこの時期なるとそれを思い出す。
「どうやって過ごしてたかって?」
ヤンは毎年の様に言う。
「死んだ仲間の身体を運んでたのさ」
「何で死んだんだ?」
ある時、ジョーが訊いた。
ヤンは欧米人の様に両手を広げると、半島系特有の細い吊り目を光らせて
「さぁな、手榴弾を失敗したかライフルの暴発だったか」
兵役の無いお前らには分からねえよ、と言う嘲笑が口の端に浮かんでいた。
ジョーは取り合わずにお悔やみの言葉をかける。残念だったな、つらい話だ。さっきまで一緒にいた仲間がもう二度と目を開かないなんてな。
興奮しかけていたヤンが次第に落ち着きを取り戻す。
「あぁ、そうだ。悲しいことなんだよ」
悲しそうに言うヤンのラップトップには日本のアニメが再生されていた。
そしてそのアニメの主人公が仲間の死を悼んでいる。
画面の中の彼らが何故死んだのかは知らない。
だがヤンはそのアニメを最近まで国産だと思っていたし、我が物顔をしているジョー達が鬱陶しかったと言っていた。
「仕方が無いだろ、作者を伏せられていたんだ」
ヤンは媚びる様に笑う。
そのアニメを作っているのは俺じゃないと言うのに。
「剣道、盆栽、寿司、サッカー、茶道に衆道。人類の起源もお宅だったな」
ジョーが口の端を持ち上げて言う。
その瞬間、ヤンは顔を真っ赤にしてジョーに飛びかかる。
蛹を摘んでいた割り箸を手に握っている。
「だが少なくとも焼肉はお宅の文化だ」
ジョーは続ける。
「言うほど美味くねぇけどな」
どこだって肉くらい焼くさ。
ジョーの目玉に蛹を摘んだ割り箸が刺さる。
目に嗅覚が無くて良かった。臭いんだよ、そよ缶詰。ジョーが笑う。ヤンは火がついた様に吠え狂っている。
「そいつは楽しい酒じゃなかったか?」
ヤンが飲む焼酎がひとの露かミラームーンだかは知らないしもう見えない。
ジョーは笑いながら
「お前の国の辛いだけのラーメンは本当に最悪だったな」
そう言って事切れた。
「死ぬ時は口を閉じてろよ」
ヤンが口を閉じずに蛹を食べる咀嚼音だけが部屋に響く。
だがもうジョーの耳には届かなかった。
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