見出し画像

Aphex Twin、Rei Harakami、そして黒海のそばの、Nika Machaidze (ニカ・マカイゼ) 。

エレクトロニカ音楽は好きですか? ちょっとしたモティーフをおもいついて、リズムを作り出し、これみよがしな展開はひかえつつ、飽きるまで音と戯れる、そんなテキスタイルとともにあるデザイン~柄のような音楽。

(もっとも、テキスタイルのMARIMEKKOはあんなに愛されているのに、他方エレクトロニカ音楽のファンはなぜか日本には少ない。)エレクトロニカは ambient music とも通じ合っていて美しい作品も多いので、もっと多くの人に聴かれるといいのに。このジャンルでぼくはAphex Twin(b. 1971年-) と Rei Harakami (1970年 - 2011年)が宝物のように好きだ。かれらの音楽を聴いていると、言葉の世界から離脱して、色彩ゆたかな感覚の世界へ浮遊できる。まるで虹色の空を飛んでいるみたいだ。







しかもこの頃ぼくはこのジャンルにおける未知の宝物を探してときどき中古CD屋へ行っては捨て値のエレクトロニカCDをあてずっぽうで毎回10枚ほどジャケ買いするようになった。



他方、ぼくのいつもの女友達が好きな音楽はUK中心のロック系であり、しかも彼女らしい審美趣味がある。いまのところ彼女はエレクトロニカにもテクノにも興味はなく、ましてやEDM(Electronic dance music)に至ってはまったく視野の外。(なお、ぼくもまたEDMについては同じ態度です。)ただし、彼女はアート系でヴィジュアル・アートのセンスもいい。そこでぼくは先日デートの途中でエレクトロニカ~テクノ系の中古CD専門店へ寄って、彼女のヴィジュアル・センスで捨て値のCDのなかから十枚ほど選んでもらった。この遊びがおもいがけない偶然を連れてきてくれた。



そのなかの一枚に、Nika Machaidze (b. 1972 ニカ・マカイゼ 率いるユニットErast/Goodair があったのだ。クラシックギターやアコーディオンによる黒海周辺の伝統音楽を素材に、 Trip Hop風味の、エレクトロニカ音楽が仕立て上げられていて。2020年のリリースです。ぼくはかれの作る音楽を大好きになった。


Nika Machaidzeの愛称はNikakoi。ロシア語でニカコイはНикакой 「Nobody」「なし」「未定義」「特徴なし」の意味だそうな。かれはジョージアの首都Tbilisi(人口1万人)生まれで、有名な撮影監督一家に生まれ、大学ではアニメーションと映画を学んだそうな。1991年から2000年まで、作家、監督、作曲家、映画編集者として、グルジア国営テレビとルスタヴィ2放送会社で働いたそうな。同時に1990年代半ばから電子音楽を作りはじめ、デジタルノイズやIDMのリズムにグルジアの民族音楽を乗せて作品を作りはじめる。1999年、かれはパリの盛大なDigitalis 1999 - Electronic Music Festival でグランプリを受賞した。



ジョージアっていったいどんな国なんでしょう? ヨーロッパとアジアの国境にあるコーカサス地方の山岳地帯。コーカサスはロシア語で発音するとカフカスです。 黒海とカスピ海を結んで連なるカフカス山脈の周辺地域で、山脈の南側に3つの独立国アゼルバイジャン、ジョージア、アルメニアがある。ロシアでもなく、トルコでもなく、西ヨーロッパでもない。


それでもジョージアは長らくグルジアと呼ばれていて、かつてはソヴィエト連邦の一部だった。グルジアはソヴィエト連邦崩壊後、独立を経て、2008年ロシアに軍事進攻され、ロシアとの関係は険悪化。国の名前もグルジアではロシア語ゆえ、かれらはジョージアと呼んで欲しいと言うようになった。もっとも、かれら自身の呼び方ではむかしもいまもかれらの土地は Sakartveloである。かれらはグルジア語を話す。グルジア語はたいそう独特な言語らしく、英語ともフランス語ともロシア語ともヒンディともペルシア語ともまったく似ていないそうな。


なお、ジョージアの国土は日本の1/5で、人口は400万人。ひとりあたりのGDPは5000USD。かなり貧しい。反ロシア感情はいまだに強く、2023年3月も、外国資本がジョージアに入りやすくする「外国人エージェント法案」が可決されたことに対して反対する市民のデモが巻き起こっています。

Tbilisi

それにしてもジョージアはなんというきわどい場所に存在しているでしょう。いまや無残なウクライナの南、いま臨戦体制のイラン、そして十年以上悲惨な内戦が続くシリアの北。


それでもジョージアは旧ソヴィエト圏、大聖堂、渓谷、洞窟、自然公園、そして美しいビーチがふたつあるそうな。かれらは深い味わいのグルジアの赤ワインを作り、ボルシチやドルマ(ロールキャベツ)を食べ、そしてかれらはかれらがマツォーニ(matsoni)と呼ぶところのヨーグルトを愛している。ヨーロッパ人にとってはメジャーな観光地であるとともに、銅鉱と合金鉄を輸出してもいる。(余談ながら黒海が黒海と呼ばれる理由は、地中海から塩分が濃く酸素濃度の薄い深層水が黒海に流れ込んでくるからで。おのずと嫌気性バクテリアが増えやすく、そのバクテリアが硫化水素を発生させ、その硫化水素が海水中の鉄イオンと結合して硫化鉄になって、結果、あの海は黒く見えるそうな。)


Nika Machaidze の作るような音楽はクラブ・カルチュアあってこそ。ジョージアにも都市的なナイトライフがあるんですねぇ。Instagram を見ると、Nika Machaidzeは素敵な絵も描く。


いいなと思ったら応援しよう!