鞄についての性同一性障害。

いや、ぼくだってふだんは男ものの黒革のショルダーポーチや黒のビニールのリュックサックを使っている。明るいブラウンカラーの鰐革のブリーフケースも持っているけれど、奇抜というほどでもない。なお、ぼくがどういう人間かと言うとーー。黒のベレーや、黒のハットをかぶることが多く、またぼくはセルの眼鏡をかけている。コートにしても黒のウールのロングコートやむかしのバーバリーふうのキャメルのサラリーマンコート(UNIQLO Uの、いわゆるステンカラー・コート)を編み込みのセーターの上に羽織って、下はジーンズを穿いたりもする。靴は革靴だったりスニーカーだったり。つまりそれほど突飛な恰好をしているわけでもないし、またぼくが女もののバッグを日常的に使っているわけでもない。ただし、そんなぼくは男もののバッグにいささか飽きている。なぜって、定型的で色も黒かブラウンの無難なバッグばかりで、機能性重視こそありがたいものの、しかし色も形もあたりまえ。ちょっとつまらない。バッグは女物の方が圧倒的におもしろい。


どうしてこうなっちゃうだろう? ファッションはもっと自由なものなのに。たとえば、新宿伊勢丹メンズ館などを眺めてまわると男服とて創造性に富んだものは多い。服にはたくさんの創造性の試みがある。ところが、ことバッグになるとなぜかどこのブランドもやけに保守的で、ほとんど定型的なものばかりだ。そうとう攻めたファッションを作るラグジュアリーブランドも、しかしマネキンに併せるバッグは吉田カバンのショルダーポーチでいんじゃね、という安易な態度さえ見受けられる。なるほど、吉田カバンは堅牢で機能的で値つけは強気ながら使いやすいとは言え。しかし、男ももっといろんなバッグを使うようになれば、世の中もっとおもしろくなるんじゃないかしら。世間ではLGBTQとか言っているけれど、でも、自由への道はバッグからでしょ、なんてぼくはおもったりする。


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