台所の神様たちがヴェトナム料理をおいしくしてくれる。

ヴェトナム人の家の台所には火をつかさどる神様その他の神様たち(Táo Quân)が暮らしています。ヴェトナム人たちは台所の神様たちに護られています。しかも神様たちは家族全員の秘密を知っていて。旧正月に台所の神様たちは空飛ぶ鯉にまたがって天国に戻って、すべての神々とともに年次会議を開いて、一年の間に起こったことを天界の大帝に報告する。そしてまた家族が亡くなるときも人は火をつかさどる神様のお世話になる。なるほどね、もしも知性が全能であるなんて考えたならばその人の人生はろくなものにならない。逆に、けっしてそんなふうに考えないからこそヴェトナム人たちはちょっとシャイで謙虚で気立てのいい人が多い。

今年2023年としあけそうそうぼくは偶然新大久保ベト・スーで食事をしてヴェトナム料理を大好きになった。ヴェトナム料理はけっして中華料理やフランス料理のように肉骨の水煮ダシに頼ってない。またインド料理のようにスパイスをどかどか使いもしないし、油でうまみを増すこともない。ヴェトナム料理にもおいしい肉料理は多いけれど、それであってなおどこか精進料理に通じる可憐なおいしさがある。ヴェトナム料理にいったいどんな秘密があるだろう？

いつもの女友達とふたりでぼくの大好きな新大久保のViet Xua(ベト・スー)へ食べに行った。ぼくは３回目彼女は２回目で、今回はこんなコースを組み立てて楽しんだ。

１）ベトナム風生春巻き（Goi Cuon Tom Thit）

Anh さんが作ってくれるゴイ・クオン(生春巻)のグラマラスなこと。ライスペーパーの内側には海老、鶏肉、春雨、ニンジンなど具材もリッチです。ピーナッツ・ソースのまったり感もまたいい。

２）豚ホルモンと高菜の漬物の炒め合わせ　
Long xao dua

豚ホルモンはほんのり甘く、くにくにした噛み心地、そして高菜の漬物の塩味を含んだ発酵的うまみがあわさって、炒めたタマネギのほの甘さも加わって絶妙です。ごはんと一緒に食べます。

3)牛ハチノスとパイナップルの炒めもの、バイマックル(こぶみかんの葉)風味
ong sách bò xào dứa

牛ハチノス、ピーマン、タマネギ、ニンジン、パイナップルを、こぶみかんの葉とターメリック風味に炒め合わせたもの。バランス良く、おいしい。パイナップルの甘酸っぱさが効いています。

４）バイン・セオ
Bánh xèo

お店のメニューには「おこのみやき」と書かれていますが、これは誤解誘発的です。どんな料理かと言えば、エビと細切り豚肉、リーフレタス、そして薄焼きオムレツを具材に、お客が自分でライスペーパーを水に浸し、柔らかくなったライスペーパーの上に具材を乗せて、巻いて生春巻上にして、爽やかな酸味のあるパクチー風味の漬けダレにつけて食べるもの。所作が楽しい。女友達がぼくのぶんまで作ってくれてそれもまたしあわせでした。

５）焼豚角切り入りビーフン　Bun cha

茹でたての暖かいビーフンを、ダイスカットされた焼豚入りナンプラー＆パクチー風味の甘酸っぱいコンソメスープに浸して食べます。おいしいんですよ。なお、オバマ大統領はハノイのフレンチクォーターの南東にある家族経営のちいさな食堂　Bún chả Hương Liênに入って、６ドル払ってブン・チャを夕食に召し上がったそうな。このときのオバマの同伴者は、料理人でかつまたレストラン稼業の涙と笑いあふれる珠玉のエッセイを書いたアンソニー・ボーデン。ボーデインは2018年61歳で亡くなった。なお、その食堂はオバマの写真を飾り〈コンボ・オバマ〉として海鮮春巻、揚げ春巻、蟹揚げ春巻、ソフトドリンクとビールのセットを500円足らず(85,000VND)でふるまっているそうな。

６）コーヒー・ゼリー

楽しくおいしく、しかも気づきの多いフルコースだった。かるくビールも飲んでお値段はざっとひとり3000円×２。ぼくはますます料理人のAnhさんに惚れる。Anhさんの料理は手間を惜しまず、味つけも繊細で。ぼくは今年2023年そうそうAnhさんの料理をいただいて、はじめてヴェトナム料理の魅力に開眼した。彼女はいかにも台所の神様たちに愛されている。

VIET XUA ベト・スー
東京都新宿区百人町1-11-1 アーバンビル B1F A
Phone　03-5358-9480
12時から24時まで通し営業、定休日なし。
新大久保駅そば、山手線外側の路地、新宿方面に戻り、クロサワ楽器とインド食材店アンビカの通り、地下一階。ネパール料理店Rato Bhale さんのお隣です。

Eat for health,　performance and esthetic
http://tabelog.com/rvwr/000436613/