カラフルで夢のような異世界へぼくらを招待してくれた人は、異世界へ消えた。
すらりと痩せていて背が高い人。
黒い服が似合う。
艶やかな黒髪が耳を隠していて。
細く短い眉の下に鋭い目。
鋭くほっそりした頬から顎にかけてのライン。
かれの声は艶やかで甘く、若い。
かれらのバンドサウンドは
ゴシックロックの可能性を最大限追求しつつ、
電子音やノイズを交差させ、
サディスティックで、
スペイシーで、カラフルきわまりない。
ギタリストはもちろんのこと
メンバー全員の実力も高く、
しかもプロデューサー、エンジニアをはじめ
関係者全員の本気がほとばしる。
世界水準のロック最前線が刷新される。
夜、それなりのオーディオセットと、
上等のヘッドフォンでかれらの音楽を聴くと、
夜がカーニヴァルに変わり、
たちまちぼくらは夢のような
異世界へ連れ去られる。
近年かれはドイツ表現主義的な世界をも
すばらしく表現した。
かれには挑戦してみたいことが
もっともっとあったろう。
ぼくもまたかれの今後が楽しみだった。
しかし、その夜のライヴでかれは
1曲目 Screcrow で体調が優れない。
2曲目 Boy septem peccata mortalia は
座り込んで歌った。
3曲目 絶界 を歌い終えると、
スタッフに抱えられ退場。
いったん休憩というアナウンスの後、
しかし、その後公演は中止に。
他方、かれは救急搬送されたものの、
しかし、搬送先の病院で、
かれの全身を駆けめぐる
ありあまる創造性の血液は
かれの脳幹を破裂させた。
櫻井敦司。
BUCK-TICKのヴォーカリスト。
ソロプロジェクト、THE MORTALの活動もあった。
35年間の音楽活動。
2023年10月19日、57歳の死だった。
なお、コロナとワクチンの時代が、
かけがえのない才能を奪った可能性を
否定できない。
YOUTUBEのしょぼい音質がつくづくもどかしい。ちゃんとしたオーディオセットでCDで聴けば千倍すばらしい。