前提知識を必要とする教科書
独学するときに、難しい教科書があります。その一部は、著者の問題で表現が、上手くできていないからです。しかしながら、論理的に明快に書かれていても、難しい教科書があります。そうした教科書の一例は
前提となる知識を求めている本
です。
一例として、団籐重光著「法学の基礎」有斐閣があります。そこでは
近代法の成立において
過去との関係で摩擦を起こした例
として、p66~p67に以下の記述があります。
<引用開始>
土地関係についていうと、たとえば、徳川時代における永期小作には種々の内容のものがあったが、多くは荒れ地を開墾した者がその土地の上に上土権といったような強い権利を得たものであった。ところが。民法典’二七〇条以下)は、これを永小作権として規定した。しかも、明治初年の地租改正の際に貢租徴収権者に所有名義が与えられたために、貢租徴収権者が土地所有者ということになり、永小作権者の権利は他物権ー他人所有の土地の上の物権ーとされ、そのため本来、無期限でありてたはずのものが存続期間を限定されることになった。(民法二七八条、民法施行法四七条参照)。これは、封建的土地関係を改めて、いきなり近代的土地所有制度を実現しようとしたことから生じた悲劇であった。
付言すれば、民法施行前からの永小作権は、昭和二三(一九四八)年で存続期限が切れることになっていたが、ちょうど戦後の農地改革のときにあたっていたので、昭和二四(一九四九)年の自作農創設特別措置法の一部改正で地主保有限度内の永小作地をもすべて解放するという形で、この問題に終止符が打たれたのであった。
<引用終わり>
これは、表面的に読めば
徳川時代に存在した開墾者の永期小作を
明治の新制度では通常の有期限小作とした
この矛盾は戦後昭和に永小作地を農地解放して解消
となります。
しかしながら、この話を本当に理解するためには
律令制度の土地所有と税制
開墾者の寄進
という側面まで遡る必要があります。つまり
律令制度の建前としての公地公民
土地不足による開墾推奨策
私有地になっても租税対策としての寄進
という、日本史の理解を前提とすれば
開墾者の永期小作
という概念が理解出来ます。これに対して明治政府の
西洋法規の強引な導入
によって
租税を納める者を所有者
そこから土地を借りる小作人
と単純化した見方が、現状に合わない法規を生み出した、この状況を表現しているのです。
つまり、日本の歴史で、律令制度、荘園の成立等を、理解した者が味わうべき文章です。
なお、余談ですが
日本の官僚は一つの法律を作るとき
大宝律令まで遡って経緯をまとめる
と、「これが長時間勤務の原因」と、揶揄する人もいます。
しかし、上記事例を一度学ぶと
律令制度の影響が江戸時代まで及び
明治・昭和の法制度にも対応できない
可能性を考えて、律令制度からの検討も、必要なのでしょう。
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