社会科学の工業的な応用
1.概要
現在の工業化社会は、物理学や化学などの、自然科学の基礎的知識を、上手に応用して展開しています。そこで、同じような発想で、社会科学が使えないか、考えて見ました。その結論は
社会科学の応用のためには
理論と実践の試行錯誤が必要
と言うことです。
2.自然科学の工学への応用
工業の物作りは、基本的には
物理学的な機能検討
実現に向けての詳細化
と言う段階を踏んでいます。そのため、各段階で図面などに明確に記述し、次の段階に伝えていく方法を取ります。この場合の前提は
上流で決まった大枠は崩れない
各段階で近似精度を上げる(詳細追加)
という考え方です。この発想は、天体の運動を記述するとき
地球と太陽との1対1関係
月の影響を加味
さらに細部を追加
というような、段階的な近似精度向上の作業を、模範としています。この議論で大切なことは
太陽の力は他を超えている
外乱が入ってもこれは壊れない
という状況です。
3.社会学の理論
社会科学と言っても色々ありますが、今回はマックス・ヴェーバーの「社会学の根本概念」清水幾太郎訳(岩波文庫34-209-6)を参考にしました。ヴェーバーは社会学を
社会的行為を解釈によって理解する
行為とは行為者が主観的な意味を含ませている行動
意味は理想化した「純粋類型」の上で考える
人間の行動には、意味以外に、価値観・感情・慣習に従うものがある
意味以外の行動要因は、意味が影響した行動の偏向として考える
という風に説明しています。これは、物理学などの自然科学の模倣で、解りやすい体系化と思います。
しかしながら、この場合は、物理学的な世界観と比べて、大きな違いがあります。例えば、感情などの行動要因を「偏差」と扱っていますが、人間社会的行動には
意味不明だが感情的に突き動かされる
場合があります。これは
微細な偏差
として扱うことができません。つまり
大枠として考えたものが根本的に崩れる
可能性があるのです。
このような場合には、物理学を母体にした、工業生産のように、一回の検討で方針が決まり
きちんとした図面化での物づくり
等は難しくなります。
4.工業的な対応
これに対して、IT関連のソフトウエア開発のアプローチが、一つのヒントになります。ソフトウエア開発では、二つのアプローチを使い分けます。
しっかりドキュメントを作るウォーターフォール・モデル
プロトタイプで試行錯誤するスパイラル・モデル
つまり、物理現象のように、きちんとした体系化ができる場合は
段階的な手順を踏む
手法が有効です。しかし、人間的な要素が大きい、社会科学などの応用なら
色々の可能性を試行錯誤
する対応が必要となります。こうした手法として
プロトタイプを皆で検証
修正して満足するものを探す
方法が効果を持つのです。
社会科学の方法論として
仮説と現実での検証
を繰り返す『ヮラスの輪』の手法があります。この考えを、現実の問題解決に応用するのがよいと思います。
さて、ここで仮説検証のために、コンピュータプログラムなら、部分的に作るなどの手法で、プロトタイプを見せる手法が使えました。しかし、社会組織の運営などの場合には、実験をどうしたらよいでしょう。
一つの提案は
物語を作る
です。もう一歩進めば
ゲーム的な世界
での議論です。
なお、こうした試行錯誤の場合には
収束したか?
の判定が難しい場合があります。特に
相反する要求
等があるとき、片方の声に振り回されると、相手が不満という感じになることが多くあります。しかし、現実性の目で、全体を見ると、何らかの落とし所を得ることが多くあります。
5.まとめ
現在の工業生産は、物理学を土台にして、生産体系を作っています。しかし、社会や組織の運用など、社会科学の応用をする場合には
仮説と検証で試行錯誤
を行うことが大切だと思います。