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単身海外一年間のステイ―メルボルンのナイトクラブ―

―――こんなことってあるーー?

 私は、今日メルボルンのナイトクラブにいる。ナイトクラブといえば、若き男女が欲望をたぎらせ、一夜の相手を求めに繰り出す場所。

 女たちは日々のうっ憤をかき集め、それを昇華させて顔にメイクを施し、タイトなドレスをきて変身をする。一夜の快楽、それは甘くて副反応も伴う薬でもあり毒でもある。

―――だれよー!海外のクラブは音楽を楽しむ場なんていったのは!

 わたしは、きらびやかな欲望の渦の中、ジーンズとTシャツとスニーカーという、なんともお粗末な恰好でいた。

「なんか、私たち、間違っちゃったね。」

 そういって笑いかけるのは、私と同じような恰好をした友達、ともこ。

 そうなのだ、完全に間違えた。私たちは、とりあえず買った一番安いお酒を片手に、きらきらと光って回るライトのもと、つややかな肌をみせて踊っている女の子たちをうらやましそうにながめた。

 オーストラリアのメルボルンは、コンパクトにまとまった神戸や福岡くらいの規模の町。道は広く、トラムという路面電車が町の中心を走っている。トラムに乗れば簡単に町を横断できて、デザインの美しい中央図書館、ショップが併設されている各駅、また広くてリスもみられる公園など、快適に日々を楽しむことができる。

 アジア、ヨーロッパ、インド、中南米、たくさんの人種がともに忙しそうに道を歩き、様々な国のレストランやパブがにぎわい、文化や人種が混在してまとまって、色鮮やかで生命力のあふれる、まるで生き物みたいな町だ。

 そして、そんなファッショナブルなメルボルンの夜。私たち二人はなにをするともなく、クラブの端っこでお酒をすすっていた。

「ねえ、クラスの子が、オーストラリアは音楽を楽しむためにクラブにいくんだ、っていってなかったっけ。」

 わたしは、なおも食い下がって、ともこに詰め寄る。

「そうだよね。でも、まあ、クラブはクラブだし。なめすぎてたわ。」

 ともこも、なめてたわー、とまたつぶやき、自分を励ましている。

 そうなのだ、わたしたちは音楽をたのしみに、きたのだ。決して、男たちにちやほやされにきたのでは、なーいっ!

「もういい。とも、踊ろう!」

 私はやけになって、ぐっと残りのお酒を飲みほし、ともこの手をとった。私たちは、きれいな女の子たちをかきわけ、ほぼ中央までいくと、どこのクラブでも同じようにかかっているクラブミュージックにあわせて、踊り始めた。


 しばらく、踊ってたら、体もあったかくなってきた。低重音のビートにあわせて、足が動く。額には汗がにじむ。ときどきライトに照らされて、ともこの顔が見える。私も、ともこも、テンポに合わせて体のリズムが変わる。なんにも考えていない。音楽のビートと私の鼓動だけ。

 クラブの爆音の中、私は叫ぶ。

「楽しくなってきたー!」

 ともこも叫ぶ。

「わたしもー!」

 なんだ、楽しいじゃないか。日本人の観光客気分。周りにいる金髪や肌の黒い女の子たちは、ジーンズ姿の日本人を白い目でみたり、こそこそしゃべることなんて、ない。たとえ私の踊りがへたくそでも、この音楽たのしいよね、と男女関係なく笑顔を向けあう。お互いにほどよく無関心。気持ちがいい。

 メルボルンの夜。まだ始まったばかり。巨大な生き物のような街の中で、日本から来た日本人が笑いながら踊っている。

 

 


 

  

 

 

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