
そっくりに模写をするために必要な能力と、それができても絵は上達しない理由
自分の苦手を克服する練習法を考案してやったら、苦手だったイラスト模写を素早くそっくりに描けるようになってしまい「逆にこれが出来たからなんやねん」となってしまったので、写真模写に変えたというのが前回の話
今回は
元絵そっくりに模写が簡単に出来るようになるにはどんな能力が必要か
そっくりに模写出来るようになって、沢山模写しても、オリジナルの絵がうまく描けない理由
の二つについて語ってみようと思います
正直、模写で絵を練習しようとしてる、してる人が一番知りたい事だと思うんですよね
”形を取る力”を伸ばせば、そっくりに模写するのは意外と簡単
絵を描くのに必要な能力は複数あって、それぞれを同時に上げていく必要があり、それゆえに絵の練習は難しいんですが
そっくりに模写するには、その能力の一つ”形を取る力”を鍛えれば出来るようになります
”形を取る力”を鍛えると、おおまかな形を素早くとることが出来、形の狂いを見つけ、修正しやすくなります
自分はこの”形を取る”が出来ないので、それを克服する為に、自分の能力とそれを鍛えるために必要な能力、それが出来るようになるために必要なことを考え、独自の練習法を考えたのでした
少し話がそれますが、絵を描く人は必ずきくであろう”観察”という言葉、これには大きく二通りの解釈があると思います
一つは、絵にかかわらず、問いや物事の本質を知ろうとする”洞察”の為の観察
二つ目は、模写やデッサンの時に、描く対象を見て、絵を描くために必要な情報を得るための力
どちらの解釈をして実践するかによって、絵の上達具合は大きく変わります
前者は応用がきき、絵を描かずに見る観察でも情報を仕入れて、使いやすく整理する事ができるので模写などの練習が少なくても、実践(落書きやオリジナル)の絵を沢山描いてどんどん上達していきやすく
後者は応用がきかず、模写などをしないと情報を仕入れられず、情報の整理がしづらく、描きたいものをピンポイントに模写したりしないと描けない、実践より模写等の練習を多くせねばならず、上達に時間がかかりがちです
観察力についても解釈は変わるのですが、ここでは分かりやすいように後者の「描く対象を見て、絵を描くために必要な情報を得るための力」の解釈で話しましょう
意外と人は物を細かい所まで見ていません
人には言葉があるので、お互いがその物の名前を知っていれば、名前を言えば伝わるし、たとえ言葉だけでらちが明かずに絵に描いて説明しても、それだと分かるレベルのクオリティで良いし、足りないなら言葉を足してもいい、今は検索して写真を見せることも出来るので、そこまで詳細に物を見なくても生きていくのにあまり困らないから
でもそれじゃぁ絵は描けないので、目を鍛えて、見たものからより沢山の情報を得られるようにするわけですが
観察で情報を沢山得ても、絵は描けません
絵を描くには観察で得た情報を整理して、イメージして初めて絵を描くことが出来るからです
ここら辺の話は「絵はすぐに上手くならない」という本に分かりやすく書かれてます。
とにかく、とにかく模写やクロッキーの数をこなしても上達しないという状況になりたくないなって思う人はこの本を読んで練習の仕方を考えてみるのがオススメです
絵の練習を始めたばかりだと、目が鍛えられておらず、観察してもあまり情報を見つけることが出来ませんが、経験や素質等で、すでにある程度目が鍛えられた状態になってる人もいて、私がそれでした
観察で情報を沢山得られるけど、その多い情報に惑わされて、うまく描けない
なら最初の観察である程度重要でない情報を取捨選択したり、整理する力を鍛えれば描けるのでは?と練習法を考えて、思った以上に効果が出すぎて12回程度でこれ以上やってはいけないと、判断するまでになりました
その段階になって初めて”形を取る”事の意味を理解しました
現実には輪郭線など存在しません、その存在しない輪郭線を知覚し、形だけを見ようとすると、立体感、奥行き、質感などの大量の情報が邪魔になります、その邪魔な情報を排除しまくって、線の集合体として物を捉えることが出来る(線で捉える)ようになるのが”形を取る”力の正体です
情報量を極限まで減らしたシンプルモードだからこそ、素早く大まかな形や輪郭を描くことが出来、その形の狂いや歪みを見つけ修正しやすくなるのです
”形を取れる”ようになったら、イラスト模写はどうなる?
で、形を取れるようになって、自分が苦手だった模写がどう変わったかなのですが
線やパーツの距離、や曲線や斜めの線の角度などが感覚的に理解できるようになったので、なんか変だなと思ったら、ここがずれてるってすぐ分かるし、書き直して苦戦する所も無くはないですが、そこまで頭使わずに描き写してるうちに、気がついたら似た絵ができてるというか
まさかこんなりあっさり出来るようになるとは思わなかったし、出来ると気づいた時の感想は「これが出来たからなんやねん」でした
そっくりに模写ができても絵がうまく描けない理由
ここまでの話で、何が出来たら、そっくりに模写ができるかが分かりました
これを踏まえて、模写が上手くなっても絵が上手くならない理由を解析していきましょう
とはいえ、ここまで読んだなかで「何か変だな」と思った人もいたのではないでしょうか?
絵を描くために目を鍛えて、観察してより多くの情報を得られるようになる必要があるのに、そっくりに模写が出来るようになる”形を取る”為には、逆に立体感や質感などの情報を排除しないといけない
…ものすごく矛盾してません?
立体感や奥行き、質感などの情報は絵を描く為には不要?なんてこと無いですよね
むしろ、それを知らないとうまく絵を描けない、だから観察する目を鍛えるんでしょ、と考えたら、”形を取る”だけじゃ絵を描くには足りない、だから上手くならない、という事が自然に理解出来ますよね、それじゃぁ何が足りないのか考えてみます
イラストをただ模写をしても観察力は上がりにくい
模写もデッサンも目的は観察、だといいますが、イラスト模写を普通にやっても観察力ってあまり上がらないと思うんですよね
”形を取る”の正体は、対象を線の集合体と捉える為にその邪魔になる情報を極限まで排除する事、って事はこう言い換えられますよね
”形を取る”≒”そっくりに模写する”為には最低限の情報だけを観察で得られればいい
私は目が鍛えられていて観察で多くの情報を得ることが出来たから”形を取る”為に取捨選択ができるようトレーニングしたわけですが、目が鍛えられていない人でも形を取る事は出来る、むしろ取捨選択の努力が不要な分むしろ有利なる可能性が高いです
最低限の情報だけで出来る(≒最低限の情報量にしないと出来ない)”形を取る”力を使い続けても、それ以上の情報を得ることが出来ない
”形を取る”では目を鍛える事が出来ません
それでも得られるものは0じゃないので、続けていれば、いつかは上達します、何年、何十年後の話でしょうけど
じゃぁ何で”目を鍛えて多くの情報を得る”のか
今まで自分が対象を見て、そこからどれだけの情報を得ることが出来るか、の話だったわけですが、逆に見る対象が持つ情報量を考えてみましょう
実物、写真、イラスト(絵)それぞれの情報量を比較するとこうなります
実物≫写真≫イラスト(絵)
実物と写真は同じ様に思いますが、実は結構情報が削られています
とりわけ立体感や奥行きの情報が削られがちです
実物はもちろん、だいぶ削られてる写真でも、情報量は膨大で、目が鍛えられ、多くの情報を得られても全てを描ききれない、だから取捨選択をする必要があって、その捨てたもの、残したものの差が人によって異なり、それがその人の絵の個性になるということだそうです
言い換えると、絵はすでに作者によって取捨選択が行われた状態で、絵の中にあるの情報は、これ以上捨てられない、必要な情報だけがある状態だと言えますね、表現のために必要最低限の情報を揃えた結果で、無駄な情報などそもそもないのです
こう考えると、むしろ作者が何を不要と判断して捨てたのか、ムダな情報が無いのなら、その情報の一つ一つの意味を理解しようとする事の方が重要になってきますね
表面的な物以外を読み取ろうとしながら模写しないとイラスト模写で学びを得られない
…いきなり難しい話になってきたような…
”表面的な物以外”って何だよ?もしかして学ぶための模写って思った以上に難しいのではと頭を抱えたくなりますね
模写で見て、読み取る必要のある”表面的な物以外のもの”は小説などでいう所の”行間”と考えたらいいです
小説は文章を読むだけで、頭の中に映像が流れる様な魔法のメディアではないですよね
頭で映像を作るのは作者と読者の共同制作です、話の流れや文章やセリフにちりばめられた様々な情報を元に文字として書かれていない事を読み解き、自分の経験や想像を膨らませて映像を作ったりします
行間を読むとは、文章に直接書かれていない作者の真意をくみ取ること
"模写は作者の心情をたどる行為"とも言われますが、この二つの言葉って似てませんか
模写できちんと学びを得るためには、小説の行間を読むように
作者は何を表現したくて、そのためにどう描いたのか
より魅力的に絵をみせるために何にこだわっているのか
何のためにこの線を引いたのか
などを読み取り、考えながら写すこと大事になるということです
私はイラスト模写が簡単に出来るようになって「これが出来たから何やねん」となってしまったのは、これが頭に無かったからです
面長で目の小さいイケメンの顔の比率をてっとり早く学ぶ目的で模写をしたら、何も学べた気もなく模写だけが出来てしまったんですよね
絵を描くのには複数の能力が必要で、沢山の学びを同時に得ないといけないのがしんどいので、自分は一度に極力学ぶ内容を絞ろうと思ってたのですが、イラスト模写でしっかり学ぼうとするなら、学ぶ部分を絞らず、しっかり全部理解しようとして望んだほうが良さそうです
それでもなんか漠然としてて難しい気がするので、更にハードルを下げる秘策を使いましょう
それは”何故だろう?”をたくさん見つける事です
記事の最初の方で観察には2種類の解釈があると書きましたが、これは前者の方の「本質を知ろうとする洞察の為の”観察”」になります
物を見て「何でこうなるんだろう?」と考える、ただここで大事なのは「なるほど」と納得しない事、そうすると次に続かず、分かったつもりになって終わってしまいます
何故だろう?と問いを作って、そこから解答ではなく仮説を作って、それを元に観察して、そこから他の問いや仮説を見つけ、どんどん連鎖させて、集めた仮説や観察データを分類、整理して、常にアップデートし続ける方程式を作ると、後は足りないデータを観察で補うだけなので、オリジナルを描くのが楽になります
こちらの”観察”に関しては別の記事に詳しく描いてあるので興味がある方はそちらを読んで見てくださいね
イラスト模写で学ぶために必要なのは読解力じゃないか
絵を描くには観察で情報を得て、それを整理してイメージする必要があるわけですが
イラスト模写はすでに情報の取捨選択や整理整頓が行われた状態であり、それらの能力を磨く練習としては不向きと考えられます
そうすると、イラスト模写で学びを得るのに必要なのは観察力やそれを活かす為の整理整頓能力ではなく、絵から色んな物を読み取る”読解力”と考えた方が良さそうです
読解力は「文章などを読み取って、解釈(理解)する力」ですが、読み取るのは文章に限りません
数学にも読解力が必要ですが、それは文章題の文だけでなく、図形やグラフからも問題の本質を読み取ろうとする読解力が必要だと思います
それは絵も同じで、線一つ、描くモチーフ一つにとっても、絵には作者の解釈を元に描かれています、その解釈を読み解き、自分なりの解釈をして、自分の絵に取り込む、それが模写の本質なのではないでしょうか
観察力はどこで鍛えれば良いのか
絵の模写に必要なのは読解力という事ですが、それなら”観察力”はどこで鍛えれば良いのでしょう
身も蓋もないようですが、それは実物を見るしかないように思います
「それってデッサンしろって事?」嫌な顔をされる方もいると思いますが…まぁ最終的にはそういう話にはなりはするんですけど、嫌な気持ち分かります
だってデッサンってハードルやたら高いし、難しいし、面倒くさいし、楽しくなさそうだもん…まぁやり方次第だし、やってみたらそうでもないのですが
実物を見ながら描くのが大変なら、まずは”実物を意識して見る”事から始めるのも手です
自分の観察に関する記事を読んでもらえれば分かるんですが、私が観察を始めたのは絵の練習を始める前、大人の塗り絵をやっていた時です
意識して物を見るだけでも、やり方次第では頑張って模写をしなくても、ある程度は見る観察で学ぶ事ができて、自分が絵を描く時に役立てることができます
とはいえ、やっぱり見ながら描いたほうが学びの効率はいいですよね
デッサンは数時間描けて描かないといけなかったり、教本も難しいし、そもそも好きなアニメキャラとか描けないじゃん!
…まぁアニメキャラは描けませんが、それ以外に関しては、今ははデッサンの敷居をだいぶ下げてくれる、初心者向けの本が結構出てきているので解決できそうです
自分が持っているのはこの本ですが
60秒ドローイング、短時間に限定することで”形を取る”力を鍛えるクロッキーに近い方法で、そこからデッサンにステップアップ出来るようにできています
表紙を見るとコミックイラストを描くのに役立つ情報は少なそうに見えますが、実は顔や全身の比率やアタリのとりかた、漫画風のデフォルメの仕方など、人の描き方に30ページ以上にわたって分かりやすく描かれているので、アニメキャラを描きたい人にも読んで損はないと思います
模写と筋肉モデルなどの30秒ドローイングは敷居が低いけど「模写ムダ」「30秒ドローイング意味ない」と検索サジェストで出てくる通り、この二つの練習法って結構失敗する可能性高いようですし、少し遠回りになっても違う視点で練習してみるのも良いと思います
…私も頑張ろ