おふくろの味 #壁に少々のらっきょう #毎週ショートショートnote
居酒屋のお通しで
黒酢漬けのらっきょうが出てきた。
箸でひと粒摘み
口に放り込んだ。
懐かしい味が口の中で拡がった。
母親の料理は旨かった。
俺達食べ盛りの兄弟の腹を満たす量と味。
弁当の中身は、
茶色で埋め尽くされていた。
唐揚げ、ハンバーグ、コロッケ
生姜焼き、煮物など毎回みんな茶色だ。
弁当の内側の壁に少々のらっきょうが
毎回入っていた。
母は、健康を気遣って、
らっきょうの酢漬けを作っていた。
黒酢を使うので、らっきょうまで茶色に
染まっていた。
俺が反抗期になっても、母は
弁当を作ってくれた。
弁当に罪はない。毎回大盛りの弁当を
たいらげ、帰宅後無言で弁当箱を置く俺。
母は何故か笑っていた。
兄弟みな就職し、親元を離れた。
俺も就職後、東京に出てからは
忙しく帰省する事が少なくなった。
突然帰って来た俺を
母が笑顔で「おかえり」と
むかえてくれた。
少し痩せた様に見える。
食卓は、茶色で埋め尽くされた。
小鉢には、黒酢にんにくが入っていた。
母が元気で安心した。
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