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自殺願望と殺人願望【小説 1378文字】

自殺しようと思った。

精神科で処方された薬が大量にある。
これを飲めば死ねるだろう。

準備している時に
俺の頭の中で
「なんで死ななければいけないのか」
と誰かが尋ねた。


仕事でのプレッシャーに押しつぶされ
会社を辞めた。
実家暮らしだった為、
そのままズルズルと精神科に通い
特に改善することもなく過ごしてきた。

俺は、なんの為に自殺するのか。

今の俺でいる事に疲れたから
生きているのが辛くなったから

そうだ。だから自殺しようと思った。
だが、何かが引っかかる。
喉に小骨が引っかかる感じ。
霧の中で先が見えない。
うまく言葉で表情できない、
どうやって伝えて良いか解らずもどかしい。



「何でこんな状態になったのか」
頭の中で誰かが尋ねた。

俺がプレッシャーに弱いから
両親に厳しく躾けられたから
祖父母から虐待を受けてたから

過去に遡るにつれ
なぜ俺が死ななければいけないのか
わからなくなった。

幼少期より前、乳幼児の時から
家族の「愛情」を受けていたはずだ。

親の決めたレールに乗り走ってきた。
少しでも道を外せば罵詈雑言の嵐
折檻さえもあった。
しかしそれは「愛情」があるから
俺の為に行っていると教えられてきた。

だからそれが、今まで虐待だとは
気づかなかった。
母より背丈は伸びたが、
それでも母が手を振り上げるだけで
俺は幼児の様に小さくなった。


家族は世間体を気にしていた。
地域での活動にも積極的に参加していた。
俺は無理やり彼らに引きずられながら
笑顔の仮面をつけて参加した。

祖父母から受けた虐待の跡は
今でも消えずに残っている。
変形した足の指は、元からだと
母親から聞かされていた。
それが、虐待によるものだと
知ったのは最近だった。

祖父が亡くなり、続けて祖母の
体調が悪くなった。
亡くなる前、祖母は俺に言った。

「貴方を強くする為の躾だったの」
そう言う祖母から受けた「愛情」は
躾という虐待だった。

亡くなる寸前に言われた言葉は
俺の閉じていた過去の記憶を開ける鍵に
なっていた。

祖父母だけではなかった。
両親からの虐待があった事。
そして、親族からも虐待を受けていた
過去を思いだした。

すべて「愛情」という言葉で
まとめられていた過去。
彼らの言葉を鵜呑みにしてきた俺。
だから「愛情」と言う言葉に
俺は違和感を感じさせていた。
その事に、やっと気づいた。

俺が、俺であり
俺でなくなったのは
彼らの責任だ。

そう考えたら、死ぬ理由がなくなった。
俺が死ぬ事じゃない。
彼らが死ぬべきなんだ。
頭の中の霧が晴れていく感覚がする。

テーブルの上の睡眠薬に
拳を振り落とした。
粉々になった薬と
テーブルから転がり落ちる薬。


俺が死ぬなら、彼らも死ぬべきだ。

俺を今までに感じた事の無い
感情が覆っていく。

薬もある。父の趣味のゴルフクラブも
親戚が置いていったDIYの道具もある。

楽に死ぬ事なんてない。
楽に死なせる気はない。
自分を殺すついでに両親も殺すだけだ。
1人が3人になるだけだ。
これが「愛情」なのか。

祖父母が死んでしまったのが悔しい。
俺が殺すべきだった。
葬式で流れなかった涙が、俺の頬を伝った。


叔父に押し付けられた
タバコの跡が残る左腕をにぎりしめ
俺は、俺を俺でなくした
奴らも一緒に殺せたら
どんなに幸せか考えた。

今までにない多幸感が脳内を支配する。

今死ぬべきのなのは、俺じゃない。
俺が死ぬ為に必要な事がある。
久しぶりに俺の表情筋が動いた。
俺がやるべき事。

俺は生きる希望を見つけた。





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