海辺のメリークリスマス
クリスマスが前日の夜から始まるのは、日没で一日が終わるからなんだよ。
きみはそんな雑学をひけらかすよりも、ぼくをただ抱きしめるべきだった。太陽が海の向こうに消えたのを見送って、それでも何も言えないでいる、情けないぼくを抱きしめるべきだった。
クリスマスイブのイブは、イブニングのイブだからね。
それを知ったところで、じゃあたった今はじまったクリスマスイブに、きみは美しさを灯らせてくれるのか。嘘つきは嫌いだと笑うくせに、愛してると言ってぼくを睨むきみは、たぶん天邪鬼というやつで、今のきみに感情がないように見えるのは、つまり爆発寸前なのかもしれなかった。
ちいさいころから、おかしいなって思ってたんだ。だって二十五日の夜なんて、もう全然クリスマスじゃないもん。日が沈んだら、もうクリスマスはおしまいなんだよ。日が沈むって、そういうことなんだよ。
饒舌なのは、もう話すことはないということなのだろうか。悟ってしまったぼくは、太陽の沈んだ方を、じっと見つめるしかなかった。神の誕生を祝う日だというのなら、どうかこの西向きの海から、再び太陽を昇らせてくれ。そう願うけれど、サンタクロースがいないのは小学生の頃から知っていた。
サンタクロース、イズ、カミング、トゥ、タウン。
きみの口ずさむ歌はへたくそだから、余計にサンタなど来ないのだという現実が身にしみた。この町にぼくが来ることももうないのだと言われているようでもあった。波の音が静かなことに妙に救われていた。きみの声をひとつも聞き逃したくなかった。
メリークリスマスのメリーは、ゆかいな、ってことだよ。どうする? もう一晩だけ、いっしょに過ごす?
雪でも降ってくれればぼくの方から抱きしめられるのに。せめて、その頬に流れる涙が本物なのかどうかだけ、教えてほしかった。
ゆかいなクリスマスを過ごした何年分かの思い出を、それをなぞるのが本当に幸せなのかを、知っているのは世界でただきみだけだった。