【小説】嵐の後には凪がくる 1
序
頭のさきから足の指まで、風が通っていった。昼までの溶けそうな暑さとはうってかわって、夕方になると強風が吹き荒れた。まだ太陽がいるはずの夏の横浜が、灰色に塗られていった。次の瞬間彼女の体はみるみる飛ばされた。足元から風にお姫様抱っこされるように、ひょいと体は宙に浮かび、ジェットコースターの回転のようにぐるんと一周した。しかし体は軽く、どんどん上に上に持ち上がっていく。重力のない世界で体は自然の驚異にさらされた。上から灰色のマンションを見下ろした。幸運なのか、彼女の脳ミソは