中村仲蔵

2019年1月29日 スペース・ゼロ新春寄席 @全労済ホールスペース・ゼロ 

初めて聴いた松之丞さんの講談がこれだった。
2019年秋の独演会だったと思う。
歌舞伎歴が長い私にとっては、もう こんなの運命ですか?! と思うような一席だったからか、仔細に覚えている。
たっぷり50分かけて、下っ端役者だった頃の悔しさ、成田屋に目をかけてもらい、ついには名代へ。妬みからくる「五段目 斧定九郎」役を受けてからの苦悩。

どのシーンにも背景には、才能ある役者の孤独があった。
この孤独オーラが松之丞さんと重なって、闘っているのだなあと思ったものです。

あとから「講談入門」を読んで、松之丞さんオリジナルな編集が入ってのことだったそう。芸人は、人前に立つ人の心は、もっと孤独でもっと追いつめられているのだと思いました。
これ、いつかきちんと書いておこう。

寄席のトリで演れるサイズ 25分へ。

前置きが長くなってしまったけれど、そんなこんなでショートサイズの「中村仲蔵」が聴けました。
前半の稲荷町時代の悔しさや、成田屋に目をかけられる件はバッサリとカット。名代昇進からの「仮名手本忠臣蔵」の役が付くところから。

「五段目 斧定九郎」たった一役、と知って唇を噛む仲蔵。
これは見事な工夫をして 妬む輩の鼻を明かすことができるのか、はたまた名代から引き摺り下ろされるかの瀬戸際に、すぐさま妙見菩薩様で毎日毎日神頼み。

ちょっと違和感。
いきなり神頼みってのは、唐突過ぎる気がします。
一所懸命に役の工夫を考えて 努力して出世した仲蔵の勝負どころですもの。きっと、ものすごく考えたはず。
考えて考えて、悩んで悩んで、それでも妙案は思いつかない。
周りには、妬み嫉みを持つ輩でいっぱいな仲蔵は、相談できる相手もいない。
もうどうにもできず、追いつめられての神頼み。

時間の関係で端折っているのは理解できるのだけど、心がついていかないのと、願わくば仲蔵の孤独はここでも出してて欲しいなあ。

芝居とご贔屓筋のシーンはたっぷりと。

血糊の工夫を2回、それでも静まり返る客席を感じる。
自信がない時ほど 芸が大仰になるものです、とさりげなく言ったひと言が重い。
(無駄にまくらが長かったり、ウケる顔芸や本筋を外したくすぐりだったり。)
どでーん!と大仰に倒れるも、静まり返る客席。

ここでも孤独。

たった一人でもいい、たった一人にでも伝わればいい、と落胆の中で聞く、ご贔屓筋のことば。
ここでのやり取り
「五段目が、定九郎が良かったんだよ」までが、少し長い、かなー。

この先は松之丞さんの思いが詰まった、宣言のような独白のような
「昔はよかった。だからこのままでいいや なんて、思っちゃいけねえな。
  良いものは良い、面白いものは面白い。
  ガキだってわかるような事を、こんな爺さんになって改めて気づかされた。」
講談という、絶滅危惧される芸能を どうにかしよう、どうにかできるぞ、と心に決めた松之丞さんが、言わせたい言葉なのかもしれないな。

まくらでお話なさっていたけれど、まだ悩んでおられる感じ。
一度完成したものを、再構築するのはきっと至難。
「前のめりで転んだりっていうのも、二つ目の今しかできない事かなあ、なんて思っておりまして、ちょっと今日はお客様に甘えようかな」と。

どうぞどうぞ。お好きなだけ。

今週末に、淡路人形座での昼夜公演。
中村仲蔵を お昼に松之丞さんが、鯉八さんが夜にお演りになるのだそう。
天才・鯉八さんの工夫も、ものすごーーく気になるぞ。
もちろん、進化した松之丞さんも。
ひゃー、行きたいいいいい。
あいにく お仕事(涙

みなさまの 絶賛の声を楽しみにしていよう。

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