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地球の裏側の美しいものは、ただひたすらに美しかった。

あまりにも美しいものを言語化するのはひどく難しい。

いくつもの国を巡って、心を強く揺り動かす絶景を目にする度に強く思う。この景色に相応しい言葉を選びたくても、その言葉を見繕うことができないのだ。小説家というやつは本当に凄い。途方もない美しさを言葉で言い換えることができるのは一種の才能だ。

言葉を使って全てを表現することは、途方もなく難しい。だから人はカメラという機器を発明し、その美しさを写真として残そうとしたのではないだろうか。
自分が目に写したものが、こんなにも美しかったことを誰かにちゃんと伝えるために。

ブラジルの北部に位置する、レンソイス・マラニャンセス国立公園。真っ白な大砂丘が大部分を占めるこの国立公園が人で賑わうのは、6月から8月にかけてのわずか数ヶ月程の期間だけ。雨季が終って砂丘に姿を現すのは、言葉にし難いほどに美しい青色の湖、雨によってできた大きな水溜。そうやって形成された無数の湖と砂丘の織り成すコントラストは、これが現実に存在するのかを疑うほどに美しいものだった。この地の写真が世に出回ったのは2000年代のこと、その写真は多くの人を魅了し、この地を目的地に加える理由になった。

私もこの形容しがたい絶景を目にするために、アクセスしやすいとは言い辛いブラジル北部に足を運んだ。アマゾン川の中心地のマナウスから丸一日を経て、最寄りの空港があるサンルイスへ。サンルイスからバスで5時間程揺られ、最寄り街のバヘイリーニャスへ。レンソイス・マラニャンセス国立公園へは何らかのツアーに参加し、四輪駆動の自動車で移動する。川を越え熱帯雨林の生い茂る凹凸激しい悪路を進まないといけないからだ。まるでジェットコースターのように揺れる悪路を進むこと数十分、ようやくその地に足をつけた。

車を駐車した場所からは、ほぼ直角と疑うくらい激しい傾斜の坂道を自分の足で進まなければならない。ただでさえ辛い坂道なのに、砂が足を捕らえてなかなかうまく進めない。白い砂に反射した日差しが身体を火照らせ、汗が首もとにじんわりと滲んだ。しんどい、ただただしんどい。それでも人々は懸命に急いで前に進む。夢にまでみた光景が手の届くところにあるのだから。


そうしてたどり着いた、熱帯雨林のおわり、砂丘のはじまり。




この美しい一瞬を切り取るために、皆がむしゃらにシャッターを押していた。声は殆ど聞こえなかった、それくらいにみんな夢中だったのだ。

その間にも太陽の動きで、この大砂丘は姿を変えていく。写真は十分撮ったはずなのに、全てを焼き付けられていない気がする。時間が止まって欲しいとさえ思った。

このツアーは午後に国立公園に到着し、大砂丘に夕日が沈む様を楽しむのがメインのものだった。でも太陽が十分な高さにある内はみんなで湖水浴を楽しむことができる。透き通る水の中には水草もあり、魚さえ姿をみせると言う。この生命体がどこからやってきているのか、それは未だに謎に包まれているそうだ。


日が傾いてきた。湖から身を引き上げ、砂丘の一番高いところに足を運ぶ。そこが夕日を眺めるには一番良い。蟻の行列のように人が一箇所に集まる姿もなかなかに見応えがあった。

この夕日が沈みきってしまったら、魔法の時間はおしまい。険しい坂道を下り、街に戻らないといけない。少しもの抵抗として、空に向かって太陽がいつもよりゆっくり沈むようにお願いしてみた。もちろん遅くはなりはしないことはわかっている。それでもお願いせずにはいられなかった。この時間が終わってほしくなかった。


夕日が沈みきり、鳴り止まない拍手が大砂丘に響く。これでツアーはおしまい。四輪駆動の自動車で、宿まで戻らないといけない。砂丘の出口に向かう間も、名残惜しそうにカメラを構える人の姿が後を絶たなかった。私もその内の一人、何か忘れ物はないか確認するように、夢中にシャッターを押していた一人だ。


日が経ち記憶の輪郭がぼやけ始めた頃に写真を見返すと、やっぱり美しいものはただひたすたに美しかった。でもやっぱりこの景色に相応しい言葉は未だにわからないままだ。

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鈴木(宮原)ゆうり
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