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遠距離恋愛からの同棲生活からの、結婚しました
僕の住んでいる街では祝日に入籍をする場合、窓口がやっていないので代わりに市役所の守衛室に婚姻届を提出することになっている。正確には守衛室の職員が仮に書類を預かって、市役所が開いたタイミングで提出してくれるという仕組みだ。僕も妻(結婚しました)も平日は働いているので休みを合わせるのが難しく、年明け落ち着いたらすぐ入籍するとなると1月3日だねーという話になり、この手段を取ることになった。
1月3日、僕たちは市役所の裏手から地下一階に降りて守衛室を訪れていた。年末年始はずっと晴れていて暖かったのに、その日はいつもの正月らしい寒さで僕たちはポケットに手を深く押し込んでいた。
コロナ禍で付き合い始めて、1年半の遠距離恋愛と1年半の同棲生活を経ての結婚となった。同い年なので友達みたいな感覚。
守衛室はマンションの管理人室のような見た目で、その中に初老の職員が一人だけ働いているようだった。僕は自分たちがわざわざ正月に結婚することで彼が出勤しなくちゃいけなくなったんじゃないかと錯覚して若干の居心地の悪さを覚えた。しかしもちろん彼は僕たちのためにわざわざ出勤してきたわけではないのだと思い直すことにした。
職員に婚姻届を提出する。婚姻届は去年の時点で一度窓口に確認してもらっていて、住所とか本籍地の表記が間違っていないかどうかチェックしてもらっていたためミスはないはずだったけれど、それでも若干緊張した。
婚姻届は無事受理された。万が一書類に不備があった場合連絡をくれるらしい。逆に不備がない場合は何も連絡はないとのこと。「ご結婚おめでとうございます」と職員がにこやかに言った。それが僕たちが夫婦になって初めての祝福の言葉だった。その瞬間をもって僕は夫になり、彼女は妻になった。本当に紙ペラ1枚なんだなあ、と僕は思った。
ただ改めて考えてみれば紙ペラ1枚で結婚できるというのは語弊がある。実際にはその前段階としてそれぞれの親への挨拶があり、両家顔合わせがあり、フォトウェディングの下見をしたり、新婚旅行の手配がある。僕たちは結婚式とか披露宴にあまり関心がなくてそれをやらない選択を取ったけれど、それでも結構色々な手順があった。これで結婚式も披露宴もやるとなれば時間もお金も労力は途方もないことは容易に想像がついたし、それをやってのけた妹は改めてすごいやつだな、と感心した。
1年半同棲してからの結婚なので、実生活ベースで言うと正直どうと言うことはない。市役所から帰ってきて「いやぁ結婚したねえ」と言って二人で笑った。去年二人で選んだagateの指輪を早速してみて、ツーショットで記念写真を撮った。慣れない指輪は薬指をかすかにくすぐって、結婚した実感を確かに伝えてきた。
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夕方になると妻は料理やら風呂やらで早速指輪を外しており、「やっぱり慣れないし違和感すごいわ。家では外してるかも」と申告してきた。「ええ〜」と大袈裟にのけぞって僕は笑う。二人の結婚生活が、始まりました。
今日はここまで。