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香水をつけること
大学生時代の就職活動のとき、なんとか面接官の記憶に残ろうと思ってキンモクセイの香水をいつも付けていたことがある。面接が終わったあとで「ほら、あのキンモクセイの匂いの人いたじゃない?」みたいな感じで記憶に残れば採用する可能性が少しでも上がるのではないかという浅はかな作戦であった。
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その小細工が成功したのかはさっぱりわからないが、とある会社に入社することになり、「あいつはキンモクセイの匂いがするから採用したのに入社した途端匂いがしなくなった」と思われても困るのでなし崩し的にキンモクセイの香水をつけ続けた。
結局6年くらい同じ匂いを纏っていたと思う。
京都の練り香水で、かなり小さい容器だったので次々空になっていき、いつもストックを用意していたのを覚えている。
キンモクセイの香水はあらゆるものを試したけど、これが一番再現度が高いと思っています。
それから流石にキンモクセイの香水をあらゆるシーズンつけるのもTPO的に良くない(?)と思うようになり、しばらく香水をつけずにいたのだけれど、去年また徐々に香水をつけたい欲が湧いてきた。
⭐︎
人には匂いがあって、それは家のシャンプーとか使ってる柔軟剤とか、それから汗やフェロモンによって構成されているわけだけど、人から匂いがすればそれがその人の匂いなわけで、香水をつけることで「これが私の匂いです」と自己表現できるのって、よくよく考えると普通にスゲーし、奥が深くて面白いんじゃないかと思ったのだ。
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つまりは洋服と同じだ。好きなものを身につけることで自分を表現することができる。繊細で知的な印象を与えるのか、情熱的で元気なイメージを与えるのか…。そう考えると匂いに無頓着で特段何もつけていない自分っていうのは、匂いの領域においてマッパ(全裸)なのではないか。
そんなことを考えているうちに香水を物色するようになっていた。
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結論から言うとAesopのEidesisという香水の匂いを嗅いだ時に衝撃を受け、「こんな良い匂いがこの世に存在するのか….!!」とびっくりしてしまった。
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いわゆるハイブランドの店内のような香水らしい香水の匂いとは違って、自然由来なんだけど、ものすごく複雑でスパイスの効いた匂いー。
公式の紹介によれば
華やかなトップノートが、深みのあるスパイス、湿った土、乾いた森を思わせる香りへと移ろっていく魅力的なフレグランスです。
とのこと。なんか、わかんないけどいいじゃん…。
また、香水はつけた瞬間から、時間が経つにつれてその風合いが変わっていくのが魅力の一つらしいのだけれど、僕のEidesisはというと
第一幕
プチグレン、ブラックペッパー、そしてほのかなフローラルのアロマが、日々の入浴で温まった肌の上で広がり、気持ちを鼓舞します。
第二幕
アンバーを思わせるフランキンセンス、スパイシーなクミン、ウッディなシダーの香りが、あなたの鼻と、幸運にもあなたのそばを通ったひとを楽しませます。
第三幕
サンダルウッド、シダー、そしてベチバーのベースノートが一日中芳しく木霊し、香りに願望を刻んで書き留めます。
とのことで、とにかく解説すらもポエムでいけている。
ここまで細かく匂いなんて全然わからないのだけれど、とにかく僕はこの匂いが本当に好きで、自分に似合ってるからどうとかではなく、「とにかくこの匂いが大人っぽくて素敵すぎるから、なんとなしてこの匂いに似合う大人になりたい!」という思いで毎日この香水を使っている。
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ちなみにこの香水、50mlで23,000円だった。びっくりした。腰を抜かすかと思った。それまで使っていた練り香水なんて2つで1,460円だぞ。
でも(頑張って)逆に、プラスに考えてみる。
こんな凝ったお高い香水をつけている人なんて滅多にいない。だからこそオンリーワンというか、特別な匂いがするあの人ーみたいな感じになれるのではないか?
洋服ならあからさまなハイブランドを着ていたら「ブランドに着られている」みたいになってしまって逆にみっともないかもしれない。ブランドが主張しすぎていて、こんなにブランドを持っているワタシを見て!!という自己主張に捉えられかねない。
でも23,000円の香水は、バレない。
「あいつは庶民のくせにAesopの香水をつけているな。ナマイキなやつめ!」とは糾弾されないだろう。糾弾するとしたら相当な香水好きか、あるいはAesopの店員かどちらかだろう。
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自分がこの香水に釣り合う大人だとは全く思わない。買うときに腰を抜かしているのだから当たり前だ。でも勿体ぶらず、毎朝ワンプッシュして家を出る。それは今日こそこの香水らしい自分でありますようにというおまじないに近いのだと思っている。
今日はここまで。
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