機械対話
先日読んだ「たのしむ知識 菊地成孔と大谷能生の雑な教養」はやたら面白かったです。
まあ二人の放談集なのですが、その中にこんなのが
「えせアスペ」の時代
菊地 オレはこれからのトレンド何ですかね?って訊かれたら「えせアスペ」だと思う。
大谷「えせアスペ」(笑)。
菊地 昔の「えせ同和」みたいに、アスペルガーを称する連中がこれから出てくると思う。アスペルガーを免罪符にして、「あなたが話してるとき、こちらはボンヤリしたり、突然話を中断したり、自分の話が止まらなくなったりするけど、勘弁してください」と。そういう人間をオレは未来の主流派としてだが「えせアスペ」と名づけたい(笑)。これからはコミュ障の合法化が進む。AIの進化で人間が心置きなくコミュニケーションができるのはAIだけになり、「人間同士がしゃべってかみ合わないのは当たり前」という前提になる。そうなると、話がうまくかみ合うこと自体が奇跡的、スムーズな会話はほとんど魔術、みたいな扱いにきっとなるね。
大谷 (笑)。「わかるわかる」と答えると「なんでわかるんですか!?」と返されちゃうとか。
菊地 「人間同士がしゃべってるのに」って。
大谷 まさに「話せばわかるか」(笑)。
菊地 もちろん人間同士の会話がなくなることはないよ。潔癖症が増えてソープランドに行く人が減ったと言うけど、ソープもキャバクラも今も普通にあるし、「いいリズムボックスができたらドラマーは消える」と言われたけどドラマーは一人も消えてない。ただ、たとえばタクシーの運転手のようなサービス業は、チャットAIを参考に話すようになるだろうね。
大谷 円滑なコミュニケーションの方法をAIで学ぶってことで?
菊地 うん。さらに進むと、個々人が自分の話をAIにディープラーニングさせて、そのAIとチャットしたりしゃべったりするのが一般化する。自分と対話するんだから絶対揉めないし、楽でしょ。そのかわり、人としゃべる局面では揉めるのが前提になる。で、「それでもしゃべりたいからしゃべろうよ」となる。
おお、なるほどです。他者とコミュニケーションをとるのはとても難しいことだけれど、対面でしかやりようのなかった時代は、困難であったり、上手くいかなくてもやるしかなかった。
それはここでもあるように人間は根源的に自己表現をせずにはおられない生き物だから。自己表現をするために他者と会話、コミュニケーションをとろうとしていると思います。
なぜなら群れの中で生きる生き物だから。群れから離れて孤で生きる強さを持つ人は決して多くない。
ところが、なかなか人間関係はすんなりいくものでもない。そうするとコミュニケーションを取りやすい人同士でまとまる、まあこれが友人関係の起点ともいえるだろうが、コミュニケーションを取りずらい人はハブられる、のけ者にされるということになる。
ただコミュニケーションを取りやすい人同士と言っても、やはりそこには祖語や軋轢は残る。となると一番良いのは菊池氏の言うように、自分のことを最も分かっている相手との対話に耽溺することになるのではないか。自分のことを知って、自分の好みを知って、自分に対してこう反応してもらいたいという返事が返ってくる相手。それこそ自分の複製でもあるAIとの密な関係でありましょう。
またそれが自分の好みのCGで登場するわけですから、まさに「ブレードランナー 2049」のジョイ嬢であります。彼女は「ウォレス社製のAI搭載ホームオートメーションシステム。Kの良き理解者であり、恋人以上の存在。」ではありませんか。丁度BS12で日曜日に放送されていました。
あなたのおそばにあなたのジョイを♡
タイトル写真は小津安二郎展で撮ったもの。ブレードランナーのロサンゼルスの未来の風景もいいけど、昭和ドップリの飲み屋の風景も良いですよね。