垰本君は廣島へ煙草買いに
私には小学校の時(中学からは別)垰本(たおもと)君という友だちがいました。小学校の出席番号はあいうえお順でなく誕生日順で、彼と私は半月違いで前後の並びになっていたこともあって仲良くなり、比治山に自宅がありましたが、良く家にも遊びに行きました。
彼はその後歌舞伎の世界に進み、早逝しましたが「垰」という字が珍しくて今でも覚えていますし、もう半世紀以上前ですが顔も思い出します。
私はそんじょそこらにある「鈴木」ですが、「垰本」は彼以外に「垰」の字のついた人は知らないので、相当珍しい苗字だろうとは思っていました。
その名字の「垰」ですが、確かに「峠」ほどは高いところではなく、もう少しなだらかな山でなく丘越えの場所なんだろうなというイメージはありましたが、地元紙の「『文字を書く』重み」というコラムで久々に「垰」の字を見て、ああこの字は山口県に固有の「方言漢字」なのかと知りました。恐らく彼のご先祖さんも山口から来られたのでしょうね。
コラムの冒頭にこうあります。
デジタル化が進んだ現代、手書きの機会は減少する一方だ。文字を書き伝えることは歴史的にどんな意味を持ってきたのか。分野の違う専門家の近著を手掛かりに考える。
東京都世田谷区の地名「砧」、琉球の「琉」。これらは特定の地域で使用頻度が高いなどの特徴がある「方言漢字」の一例だ。
「方言漢字事典」(研究社)や「なぞり書きで脳を活性化 知る人ぞ知る方言漢字128」(大修館害店)の編著者を務めた早稲田大教授(国語学)の笹原宏之さんによると、方言漢字とは「何らかの地域性を帯びたもの」。漢字は各地で使用されるうちに読み方や意味などに大なり小なり地域色が表れるという。
知らない方言漢字も紹介されており、早速図書館に「方言漢字事典」貸し出しを申し込みました。そこには
「垰」
主に山口県、広島県に見られる地域文字。
「たお/たわ」は奈良時代から見られ、『古事記』の垂化(第一一代と伝えられる天皇)記に「山多和」(鞍部つまり尾根がたわんで低くなっているところとあり、また『万葉集』に見える「(山の)多平里(たをり)」も山の鞍部を指す古語であった。「たわむ」とも語源は同じとされる。「とうげ」も「手向け」の転という説の他に「たわ(お)ごえ」からともいわれている。
「たお/たわ」は、中国山地に多い比較的低く小ぶりな山の峠(道)や鞍部を指す方言。
なるほど
その方言漢字ではないのですが、丁度青空文庫にアップされたこちらにも驚きました。
タイトルで廣島が目についたので開いたのですが
読んでいくと、
ヒロシマ「會津檜枝岐などの狩詞で、人里のこと」
ヒロシマヘユク「壹岐では死ぬの隱語に代用して居る」
廣島へ煙草買ひに行く「伊豫の内海側では死ぬといふ代りに、折々使はれる氣の利いた忌詞」
とあります。また
ヒロシマといふ語に、もしも斯ういふ感覺が伴なふことを知つて居たら、藝州の殿樣も是を御城下の名にはしなかつたかも知れない。つまりは人が忘れるほどの古語でもあり、しかも會津の山間や壹岐の島では、僅かに覺えて居て何か特殊の用途に、充てたくなる樣ななつかしい言葉でもあつたのである。
なんとまあ、松山で「今度広島に行くんじゃ」「なにしに」「広島に煙草を買いに行く」なんていうと、病気?自死?と思われたんでしょうね。
垰本君は廣島へ煙草買いに行ったんだな。お彼岸は過ぎましたが、ご冥福を祈ります。成駒屋!