ほんとうに聞こえないのか きみには あの声が
土曜日に女房と見に行きました。
何年か前にこの実話を動画で見て、本当に驚いたので、その映画化となると感涙必至ですが、勇気を振り絞り行ったのです。
ただしジジイが一人泣くというのは恥ずかしいので女房に同伴いただきました。
案の定、映画はこの実際のBBCの番組そっくりに再現されて、主人公がスタジオに座るところから涙が止まらず、嗚咽を我慢するのに大変でした。
実際の番組でもニコラス氏はそれほど感涙にむせぶというのではないのですが、映画のニコラス役のアンソニー・ホプキンス氏も割合落ち着いた演技でした。
ただ自宅に戻った後、プールサイドの椅子で嗚咽する姿はさすがの演技力であり、また実際のニコラス氏もそうだったのではと思わせます。
2回目のスタジオ対面の後、洗面所でニコラス氏(アンソニー・ホプキンス)が顔を洗う姿も印象的で、私も映画が終わってトイレに駆け込み、ニコラス氏もどきに顔を洗い、目の周りの涙の跡を拭き取りました。
この映画は公式サイトにあるように、ナチス侵攻直前のチェコスロバキアから主にユダヤ人の子どもをイギリスに難民として連れてきたニコラスを始めとした数人の市井の人の、人として崇高な行為を描いたものです。
ただこの映画がなぜ2023年に製作、上映されたかということも考えざるを得ません。
もちろんガザに対するイスラエルの虐殺行為は、ユダヤ人に対するナチスに重なります。侵攻、迫害するのが今度はユダヤ人、とまるで裏返しになっている歴史的な皮肉はあります。
またイギリスの総選挙は真っ最中ですが、その論点の一つが難民問題、とくに喫緊にあるのがルワンダへの難民の強制送り返しをするのかという問題。
難民を受け入れる映画がある一方で、議会では難民を追い返す法案を通し、スナク首相が実施するのでしょうか。
映画では難民を救ったニコラス氏はエリザベス女王からナイトを受勲されてたんですけどね。
隣国のフランスも総選挙で極右が主導権を取りそうです。そうなると難民に対しては厳しい対応を実行しそうだし、国内のアフリカ系、ムスリムに対しても露骨な弾圧が始まりそうですから、まさにこの映画にあったニコラス氏の意思が踏みにじられる皮肉な時期の上映に足もとがすくむ思いでした。
英仏だけでなくアメリカはメキシコからの難民問題を抱えた大統領選挙。どんどん世界は偏狭な意見が声高になり、ニコラス氏が示した善意が隠れていきそうです。
またこれも驚いたタイミングで図書館の予約をしていた本が順番が来て貸出してもらえました。本は「ノイエ・ハイマート」(池澤夏樹)です。
この本は難民に関わる短編集です。その冒頭にこのような詩がありました。今日のタイトルも無断ながらその一部を使わせていただいています。
遠い声
きみには聞こえないか
遠いところから渡ってくるあの声
うめき、つぶやき、痛み、餓死に至る空腹
おののき、叫び、一度だけ叫ぶ声と続く沈黙
おそろしい沈黙
二人の天使は都会の上空でそれを聞いた
ぼくもきみも天使ではないから遠くからのざわめきとして聞く
瞼は閉じられるが耳はふさげない
聞こえないふりはできない
声の背後に銃声
想像する火薬の臭い
瓦礫の埃の臭い
死臭
何よりも恐怖の臭い
伝わる戦乱の気配
ほんとうに聞こえないのか
きみには
あの声が
本当に恐ろしい、見ましょう、聞きましょう、出来ること小さい事でいいから損得でなく善意で行動しましょう。
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