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経営者が「断を下す」ということ

 大企業であれ中小企業であれ、何かを決めること、決裁することはオーナー社長にとって日々、最も悩むことだと思います。しかも最後は「孤独」の中で決断しなければなりません。さらに、決断の責任は自分が負わねばなりません。サラリーマン社長であれば取締役会や経営会議等で全員の意見を聞き、多数決を持って決めるということも可能でしょう。


 しかしオーナー経営者にあっては、必ずしも多数決で良しとするとはいいがたい時もあるはずです。例えば、「お客さま視点」で考えるか、あるいは「自分の会社視点」で考えるかというようなことです。多数決では会社視点のほうが手が多く上がるかもしれません。


 そのような、経営者として悩む心境を、SBIホールディングス会長の北尾吉孝氏は、ブログの中で「経営者は困難の中でも英知の結集は当然やらなければいけません。しかし同時に、ある種孤独な環境下どんどんと決めて行かねばなりません。だからその分トップには、見識や能力が求められるのです。」とおっしゃっておられます。


 つまり、決断を下す前に従業員からの「英知」を結集させ、さまざまな角度からの意見や考え方を可能な限り聞いた上で、最後は自分が決めるということです。さらに北尾氏は「組織のトップは、英知結集に努めることが出来る人物でなくてはいけません」とも述べておられます。ここが簡単なようで実はなかなか難しいところでもあるように思います。


 なぜなら社長ともなれば従業員の手前、簡単に質問しづらいという感覚があるものです。しかしながら、より良い決断をするためには、経営者としては自分の考えだけで決めるのではなく、「英知」を結集させた中で決めなければなりません。その意味でトップは英知結集に努めることが出来る人物でなくてはならないと言われているのだと思います。


 そしてさらに、松下幸之助氏が常に言われていることが、正にこのことに関連することだと思うのですが、松下幸之助氏が「経営者の資質」として最も大事である、とおっしゃっていたのは「素直さ」でした。


 「素直な心になるために」という著書も書いておられます。毎日、寝る前に「今日は素直だったろうか」と松下氏ですら、日々反省されていたそうです。私はこれを知ったときに驚きました。

 経営者は、どうしても「自分は偉い、そして賢い」と考えてしまうものです。人間ですから仕方ありません。しかも地位あるオーナーですからなおさらだと思います。


 つまり、それだけ重要なことではあるけれども、日々、実践実行していくのは余程難しいということだと思います。小生などは別に偉くもなんともありませんが、1日24時間、反省し通しであります。


 そして、経営者が「断を下す」ということについては、松下幸之助氏も著書「道をひらく」の中でこのようにおっしゃっておられます。「進むもよし、とどまるもよし。要はまず断を下すことである。みずから断を下すことである。それが最善の道であるかどうかは、神ならぬ身、はかり知れないものがあるにしても、断を下さないことが、自他共に好ましくないことだけは明らかである。」とおっしゃっておられます。やはり、経営者として日々決断することは、とても大事なことであり、またそれが「役割」であるということだと思います。


 そして問題は、経営者が「断を下す」際に何を優先して決断するのか、ということだと思います。


 このことに関して、稲盛和夫氏は、「断を下す」際に経営者として最も大切なことは、自分の心に向かって「動機善なりや、私心なかりしかどうか」と問いかけることだとおっしゃっておられます。


 経営者が何かの決断をする時に、そちらのほうを選び、決める際の自分の「動機」が大切であるということです。自分を利することの方を選んでいないか、ということです。


 それは、経営者が何かを決断する時に、常に「利他の心」がなければ、いずれうまくいかなくなってしまうということだと思います。まさしく当然のことであると思いますが、これこそ実際、なかなかむずかしいことであると正直思います。


 もちろん世の中に完璧な人間など存在していないと思います。たとえ経営者であってもそうだと思います。でも大切なことは、自らそうなりたいと思うことで、少しずつでも良いので、それに向かって努力を続けていくことだと思うのです。


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