マガジンのカバー画像

脚本

8
少し昔に書いた脚本を公開しています。
運営しているクリエイター

2016年8月の記事一覧

パウンドケーキの味

     明転      板付きで、食卓で食事をしている男と女  女  おいしい? 男  …おいしいよ 女  ほんと? 男  (頷き) 女  よかった。この鮭おいしいでしょ。脂のってて。北海道のいいやつなのよ。とってもいい色してたから、買っちゃった。 男  ふーん 女  あと、りゅうちゃん寝てる時ね、お荷物届いたよ。アマゾン。何買ったの? 男  洗剤とか、食料。 女  もー日用品くらい、外に出て買いに行きなさいよ。だらしないなぁ。 男  まとめて買ったほ

朗らかに失え

  明転。舞台には机と椅子2脚。   カトウが現れる。いかにもストーリーテラーといった感じ。 カトウ  とある青年の話。彼の青春は、普通といえば普通。だが、ある種、味気ないものだった。というのも、一番多感な時期にしかるべき経験をして来なかった。彼は童貞を捨て損ねていた。そもそもの起こりは高校時代だろう。同級生女子の「月々の事情」をイジリ倒してしまった結果、女子からの「異性としての対象価値」を失った。それからずるずると、彼は機を逃し続けてしまった。当時青かった己の過ちをそれ

キッズ

 板付きでシーがいる。顔を紙袋で隠して、両手に山羊のパペットをはめている。右手がイー、左手がムー。 シー  (ムー)あるところに山羊の家族が住んでいました。この家族には他の家族とは少し違うところがありました。ひとつはお父さんがいないこと。もうひとちょっと変わった兄妹がいること。それでも家族は滞りなく生活していました。ある日、母さん山羊はおしろいをはたきながら言いました。「(イー)ちょっと感謝祭だから勝負してくる。いい子でお留守番していてね。誰か来ても決してドアを開けてはいけ