見出し画像

シュナの旅

1983年に宮崎駿さんが描いた絵物語です。一部ネタバレを含みますので、まだ読まれていない方や内容を知りたくない方は、時が来たらまた読んでいただければと存じます。「シュナの旅」はまだ読まれていない方にぜひ読んでいただきたい作品となっております。

今回は「シュナの旅」を読んで自分が感じたことについてお話していきたいと思います。

自然にあるものを人間が改変してしまうことにより起こることとその恐ろしさ

物語の大きな鍵を握ると言ってもいい「穀物」。
遺伝子組み替え作物とも言えるものが出てくるのですが、それがひどい食糧危機を巻き起こしています。

一代限りで種を残さないように遺伝子を改変された穀物を人々は主食として食べています。市場に出回る穀物は全て意図的に処理され、次世代の種を残せないようにされています。種籾が一切流通しない、一切の穀物の生産を一部の権力者が全て牛耳っている世界です。
自分たちで種を残すことができない管理されることが許されない異常な世界を描いています。そのためこの世界の住民の多くは常に餓えに苦しんでいます。そんな状況を変えようとシュナは「種」を探しにいきます。

この遺伝子改変は実際にこの世の中に存在する企業がやっていたことと酷似しています。不買運動が起こったり、ある国の最高裁から断罪されたりした企業ですが、日本の中ではかなり幅を利かせています。CMも時々流れています。
当時、TBSの報道特集等で特集されていたのをうっすら覚えていますが、他の番組ではほとんど露出していなかった覚えがあります。
世界ではあれだけ大きな話題になっていたのに日本では話題にされていない・・・不思議です。ロビー活動がうますぎるとここまで一企業が力を持ってしまうことがあるのだなと恐ろしくなったことを覚えています。
今はその社名を削除されましたが、事業は世界有数の大企業により継続されています。
初めて知った時はゲームに出てくる「アンブレラ社」にもっとも近いポジションにある企業だと感じました。

人が人を支配し売買することの悲しさ、恐ろしさ

作中で穀物と引き換えに取引されているものはなんと人です。初めて読む人の感動を奪いたくないので最小限にしようと思いますが、正直これが現実の世界だったら辛すぎるという描写が出てきます。

人間を管理するシステムを構築する権力や生殺与奪の権が一部の特権階級に完全に掌握されていることの怖さを感じます。
作中に恐ろしい黒幕が出てくるのか出てこないのか、ぜひ楽しみにしていてください。

暴力が支配する世の中

主人公シュナが必死に生きる世界は暴力が支配する世界で、お世辞にも「この世界に住みたい」とは少しも思いません。正直かなりしんどい世界です。読んだ後気分が重くなる人もいらっしゃるかもしれません。

暴力が支配する世の中というか、暴力を振るったものが暴力を正当化して闊歩してしまう世界は嫌だなと思わせてくれる部分が多くあります。

岡田斗司夫さん曰く、「シュナの旅」が描かれている時代設定は風の谷のナウシカの時代へと続いていく設定とされているのだとか・・・。
ラピュタ → シュナの旅 → 風の谷のナウシカ の順だそうです。
ラピュタの時代に飛んでいた船が「シュナの旅」では地にあって、中に人が住んでいます。どんな「人」なのかもお楽しみに。

未来が見えてる?

このような一連のことを1983年に想像できていたのだと思うと、「あれ、宮崎駿さんはもしかして未来見えてる?」と感じてしまいます。今私たちの世界が直面しているような課題と同じ構図だなと思えるものがたくさん出てくるんですよね・・・。

風の谷のナウシカもそうなのですが、「選択を間違い続けてそのカバーをしなければ、こんな世界になりかねないよ」と私たちに警鐘を鳴らしてくれている印象を受けます。

間違っても私たちが住む世界を作品に出てくるような世界にしたくないと強く思わせてくれます。

改めてすごい才能です。

宮崎駿さんはご自身のアニメや作品を通して、「熱風」を起こして、人々に「何か」気付くべきものを伝えてくれている気がしてなりません。
何かは人によって微妙に変わってくると思われますが、大筋同じようなところに行き着くと考えています。

本当にすごいクリエイターだなと心から思います。この人の作品を翻訳無しで触れられることは日本に生まれて育ってきてよかったなと思えることの一つです。


以下あとがきです。(本より抜粋)

この物語は、チベットの民話「犬になった王子」(賈芝・孫剣冰編 君島久子訳 岩波書店)が元になっています。穀物を持たない貧しい国民の生活を愁えたある国の王子が、苦難の旅の末、竜王から麦の粒を盗み出し、そのために魔法で犬の姿に変えられてしまいますが、ひとりの娘の愛によって救われ、ついに祖国に麦をもたらすという民話です。
 現在、チベットは大麦を主食としている世界唯一の国ですが、大麦は西アジアの原生地から世界に伝播したものだそうです。だから、王子が西に向かって旅をしたという内容は歴史と符号しています。ただし、この民話は本当にあった出来事というより、チベットの人々が作物への感謝を込めて生み出した、すぐれた物語と考えるべきでしょう。
 十数年前、はじめて読んで以来、この民話のアニメーション化がひとつの夢だったのですが、現在の日本の状況では、このような地味な企画は通るはずもありません、むしろ中国でこそ、アニメーション化すべきだなどとあきらめていたのですが、今回徳間書店の人々のすすめもあって、何らかの形での自分なりの映像化を思いたったしだいです。
                          宮崎 駿  
                          1983年5月10日(火)

暗い話ばかりだったので少しでも明るくなるように最後に情報を・・・。
シュナの旅には「もののけ姫」にも出てくるあるかわいいキャラクターが出てきます。ということは「もののけ姫」と同年代?とかこの種は長いこと繁栄していた種?ということが妄想できます。こういう妄想がジブリ作品の楽しさの一つだと感じています。「シュナの旅」は久しぶりにあの「種」に会いたい方にもおすすめです。

また、「もののけ姫」で見たようなシーンも出てきますのでお楽しみに。
ジブリ作品を好きでたくさん見てきた方は「あっ!」と思うシーンが他にもたくさんあります。

長いこと書いてしまいましたが、まだ読んだことがない方にはもしよければ是非読んでいただきたい作品となっております。かなり重たい作品ですが、読んでいただいた上でいろんな感想を共有できたらこんなに嬉しいことはありません。


最後まで読んでいただきありがとうございました。


サポートしていただけたら、実験用具を買うか、実験用の薬品を買うかまだ決めていませんが、生徒さんたちと授業のために使いたいと考えています。