#156 教師の部活動指導の課題
■部活動の現状と課題
中学や高校の部活動指導については、長年にわたって「教師の仕事のブラック化」の要因のひとつにあげられてきた。
昨今、少子化による生徒数・加入部員数の減少で部活動として成立しないことや、指導教員の長時間労働、専門知識の不足、指導者の人員不足などが課題として指摘されている。
現実問題として、専門的な指導ができない、専門外の競技・種目の顧問を引き受けざるを得ない、といったことが、精神的な負担になっているケースは多い。
もう一方で、顧問やコーチによる体罰・暴力、虐待、過度な長時間練習等の不適切な行為が未だに報道されている。
私自身、高校教師になってから約30年間(管理職になってから指導なし)に担当した部活動は、ハンドボール部、調査研究部、簿記部、情報処理部、ワープロ部、バスケットボール部、柔道部、バドミントン部、ソフトテニス部、マンガ・アニメ部、文芸部、生徒会。
体育会系は土日も活動することが圧倒的に多かった。
専門的に指導できる柔道はたった4年間(私の転勤で廃部になった)。
自己の領域と言える簿記、情報処理、ワープロ部はそれぞれ2~3年程度担当し、いずれも生徒のお陰で全国大会に連れていってもらった。
東京都教委の調査によると、競技経験や指導者資格、審判資格等がある教員であったとしても、5割の教員は平日・休日に指導や運営に携わりたくないと考えているという回答だったという。
また、教員の7割以上が教材研究に支障が出ていると回答するなど、大きな負担に感じている。
特に、部活指導に時間を割くことによって放課後の教材研究や生徒指導・生徒面談の時間が十分に確保できないという声は多く、結果的に残業(勤務時間外の在校)や持ち帰り残業(自宅で仕事)の増加などが教員の不満や批判を生んでいる。
部活動はそもそも教育課程外(課外)の活動であり、教科指導、生徒指導、特別活動のいずれにも属していない。
つまり、本来であれば教員に担当する義務はないということだ。
ただし、歴史的に振り返ってみると、部活動を通じて教育効果が上がり、人間的な成長を促してきた実績もあるのは事実である。
昔はそんな議論は遡上にのることはなかった。
教師は「やるのが当たり前」という感覚だったのだろうが、内心では悩んでいる教員は多かったはずだ。
私自身は顧問を引き受けることはいとわない、いわば引き受け手のいない部の穴埋め要員だったが、専門的な指導ができず生徒には申し訳ない気持でいっぱいだった。
中には「俺たちはもっと高い技術を学びたいんだ」と要求する部員もいたが、年齢を重ねていくうちに、コミュニケーションを通じて精神論やメンタルケの重要性を話してなんとか乗り切っていたような気がする。
これが真面目な教員なら精神的に追い込まれてしまうだろう。
私も真面目ではあったが・・・・・
教育界は長年にわたって学校から部活動を完全に切り離すことができず、実際には校長が各教員に顧問を委嘱することが慣習化されてきたわけである。
部活が教員の仕事をブラック化させているとの指摘を無視できない状況になっている今日、文部科学省が見解を示したり、自治体の教育委員会が問題解決に向き合う事例が増えてきている。
国が示した「部活動の地域移行」は、これまで中学校・高校の教員が担ってきた部活動の指導を、地域のクラブ・団体などに移行することになっており、具体的には、スポーツ庁と文化庁が2022年12月に策定したガイドラインに基づき、公立中学校の休日の運動部の部活動を、段階的に地域移行しようとしている。
■改革に動き出した 自治体
最近の報道では、奈良県知事が2月7日、令和8年度から教員の休日部活動指導を廃止すると発表した。
代わりに指導する部活動指導員の配置を拡大し、地域クラブ活動へ移行するとのこと。
この他、教員業務支援員やスクールカウンセラーも増やし、教員負担の軽減を図るという政策を打ち出している。
奈良県が始める「教師にゆとりを!こどもに笑顔を! プロジェクト」では教員負担の軽減や不登校支援体制の充実が柱となっている。
心地よい響きの言葉が並んでいるが、ほんとうに実現してほしい。
奈良県では、地域移行に当たっては新年度、部活動指導員を増員。
本年度の3千万円から、2倍以上に当たる7千万円を新年度予算案で確保するそうだ。
この他、教員負担の軽減に向けた外部人材活用に関して、教員業務支援員や学習支援員配置では、市町村がこれまで負担していた分も県が賄うことで配置を促すという。
ただし、外部に委託する部活指導員制度については、指導者の報酬・待遇、採用基準、責任問題等に関して国が一律に規定することはせず、地域の実態に応じて地方自治体・教育委員会が判断するようにしているというのが現状のようだ。
何をやるにしてもカネとヒトがネックになる。
高校の部活については、プロや社会人・アマチュア、あるいは大学の競技等に近接した位置にあることから、各競技団体・連盟による支援も必要と考えられている。
課題解決にはまだ遠いかもしれないが、教員になって、仮に、不本意ながら知識も専門性もない部活動を持たなければならない状況になった時、「教育」という観点で自分にできることは何か、ということは考えておく必要があるだろう。