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#313 静かな退職 & 静かに退職する

「静かな退職」と「静かに退職する」

2つの言葉を並べて考えてみた。

ひとつは、「退職」と言っても、実際に退職するのではなく、仕事に対して消極的な姿勢で働き続ける「静かな退職」(退職したも同然の戦力ダウン)。

もうひとつは、「何も言わず静かに会社を辞める」という現象。

紀元前から「近頃の若いもんは・・・・」と言われ続けてきた人類だが、世代間の「すれ違い」や「わかり合えなさ」は解消できないものなのか?

世代間ギャップやコミュニケーション・ギャップを埋める解決策として「1on1ミーティング」を実施している企業もある。

しかし、効果的に実施できている企業は少ないという。

研修や人材育成プログラムに高い費用を払っても、肝心の幹部に自己改革の意識がないと、結局、下は変わらない。

がんばりすぎない働き方

働き方が多様化し、仕事よりもプライベートを充実させたいと考える人が増えている。

「そりゃ戦力外人材だ」
「それでは生産性が上がらないだろう」
「そんな社員は採用したくない」

いろんな気持ちが渦巻いている。

プライベートや結婚、出産、育児といったライフステージをより充実させたいと思うのは悪いことではない。

大学生の就活相談をしていても、会社の規模や業績よりも、ワークライフバランスがしっかりととれる会社かどうかを考える学生が多く見られる。

私の学生時分よりも明確な考え方を持っていると言える。

成功の可否は別として、区切りのいいところで起業したり、FIRE(Financial Independence, Retire Early:経済的自立と早期リタイア) を選択する人もいる。

テレワーク・在宅勤務により生活のあり方が見直され、より私生活を重視した働き方をしたいと考えるのも理解できる。

しかし、そいうことができる環境にあるのは大企業が大半で、割合からいえば多くの学生は環境が整備されていない中小企業に就職する。
そもそもテレワークができない現場のオペレーションや接客・営業職にとっては無縁の話だ。

ワークライフバランスの概念は頭では理解できる。
今や小中高生のキャリア教育でも取り扱う概念だ。

オジサンが長年にわたって身に付けてきた職業観・勤労観を壊すのは勇気のいることだ。

前回の記事で触れた「急に変われと言われても」の心境だ。

「静かな退職」は、企業の従業員に対するエンゲージメント(約束・契約、信頼・愛着・愛社精神)が曖昧になることによって増加するという。

人事評価・人事考課も
「正当に評価されない」
「努力しても給料が上がらない」
といった不満がエンゲージメントの低下につながっている。

アメリカの世論調査会社(ギャラップ社)が160カ国12万人以上の労働者を対象に、2022年から2023年にかけて行った調査によると、「熱意をもって仕事にあたっている」は世界平均が23%であるのに対して、日本人は5%だという。

裏の数字(補数95%)の中に「静かな退職」の可能性が潜んでいるということになる。


この調査では「静かな退職」を行なっている 「企業への貢献度が低い労働者 ”」にかかっているコストは世界中で8兆8000万ドル(約1,250兆円)にのぼると算出されている(世界のGDPの9%)。

言い方を変えれば「貢献度の低い労働に無駄金を払っている」ということだろう。

一方で職場におけるストレスは高まっており、44%の人が「前日の仕事の影響でストレスを感じている」と回答している。

日本は海外の企業と比べて、業務範囲の線引きが極めて曖昧であると言われている。

海外では業務範囲や責任の所在をきっちり分ける傾向にあるが、日本では「みんなでがんばろう」といった空気が流れていると同時に、仕事ができる人は過重に業務を振られ、仕事が属人化しがちで、割に合わないと感じる人が多いと言われている。

部下:「それって私の仕事ですか?」

上司:「いろんな仕事を経験して、仕事全体、組織全体を俯瞰できるようになってこそ一流の職業人なんだ」

部下:「それはあなたの感想でしょ」

近頃はパワハラ問題もあるから上司や先輩は若手にガツンと言えず、若手は若手で何も言われないことをいいことに、ゆる~く仕事をこなす。

話し合いも言い争いも起きない “ 平和 ” な職場。

どれだけ成果を上げても評価に反映されなければやる気は起きない。

では、行動や成果に見合ったインセンティブ(報酬)があれば熱意をもって仕事にあたるのか?

人口減少が加速する中、市場規模の縮小と生産性の低下は免れないことは明白だ。

いわゆる「2025年問題」も気になる。
25年から団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に突入する。
社会保障費のパンクや年金制度の破綻問題だ。

日本の労働市場が一気に開放され、外国人労働者が流入してきたら状況は変わるのだろうか。
政府が言う外国人労働者の受け入れ要件の緩和は、国内の治安維持も含めて議論されているが、新内閣がそこらへんのことにどう切り込むのだろう。

チームの士気が下がり続ければ職場環境は悪化する。
自治体、地域社会に与える影響も大きい。

・・・と、問題点の指摘はチンパンジーの私でもできる。

学校教育目標のひとつに「正しい職業観・勤労観の育成」があげられている。

何が正しいかは時代と共に変遷していくものだが、学生たちの心を磨くことが自分の命の使い方なのだと肝に銘じたい。