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#384 時代はLLMからLWMへ そして私の知能は劣化し退化する

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 情報系の講義で「あなたの仕事の仕方がどんどん変わっていく時代がきた」という話をした。

 AIの進化はもはやチンパンジーの私の進化レベルを超えて世界を飲み込んでいる。

 自分の専門領域のひとつでありながら、インプットとアウトプット、さらには意思決定の速度が追いつかなくなっている。

 いろんなことが億劫になりはじめていた矢先の2023年11月、Open AIからchatbot(ChatGpt)が公開され、年明けには学内でも話題にのぼり、ついには教職員の研修会や学生への対応、オフィス業務や授業への導入など加速度が増していった。

 かなりの時間をかけて教えているプログラミングだが、ChatGPTは「人間がやりたい作業」を理解したら、コーディング(システム構築ためのソースコードを書くこと)をやってくれて、その後のプログラミングもプログラム言語に応じた形で「えい、や!」とやっつけてくれる。

 細かなところは人力で加除修正する。
 これってどうなんだろうと不安になる。確かに、省力化されて残業は減るかもしれないが、設計するための頭脳と仕事を見通す力がどんどん低下し、ついには思考しない脳になっていくのではないかという恐怖を感じるのだ。

 年寄りの私は劣化するのは仕方ないとして、次代を担う若者達のことが心配になる。

 でも、AIが助言してくれるのだろう。

「その心配は杞憂に過ぎません。どうぞ安心してアホになってください」‥‥と。

 いま、最も注目されているのは空間知能だ。
 ChatGPTはテキストデータを学習する大規模言語モデル(LLM)のひとつだが、その機能に空間知能を付け加えると、現実世界を3次元で知覚して世界を詳細に把握することができるようになる。

 バーチャル空間でおこなっているシミュレーションを、現実世界で再現するような能力を持つということである。

 これがLWM(ラージ・ワールド・モデル)だ。

 ロボット製作とプロミングを担当している学内の教授に話を聞いてみた。
 市場を支配する大手GAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)は、人間の脳に代わる汎用型のAIの開発を虎視眈々と狙っている。

 しかし、IT業界の構図にも変化が起こっている。過去20年間、世界トップのシェアを誇ったGoogleの検索サービスよりも、AIを使った検索の方が精度が高くなっている。そこへもって、空間を認知し意思決定を行うAIの開発が加速している。

 空間認知能力を持つAIがロボットに実装されると、ロボットは自律的に周囲の環境を理解し、これまで以上に複雑な作業を行えるようになる。

 要は人間と同じことをやるのだが、人間よりも正確に緻密に、しかも迅速に情報を処理し、適切な行動に移せるようになる。

 飲食店で配膳、下げ膳してくれるロボットがやたらと目に付くようになった。それ以上に高度な作業をやらせようということだ。

 AIが空間認知能力を駆使して、混雑している騒々しい環境の中で特定の人の声に耳を傾け、感情を理解し適切に対処するようになる。
 日常的な相談、クレーム、カウンセリング、コーチングまで、相手の語彙力、表情や声のトーンを読み取って適切な回答をしてくれる。人間はそれを読み上げるだけ・・・・

 この分野の第一人者が、スタンフォード大学の「人間中心のAI研究所」(Human-Centered AI)で共同所長を務めるフェイ・フェイ・リー(李飛飛)氏だ。「AIのゴッド・マザー」と呼ばれている。
 ゴッド・マザーによると、言葉で人間とコミュニケートする生成AIに加えて、私たちと同じように実社会を認知するAIが間もなく出現するというのだ。
 ChatGPTに次ぐ大きなイノベーションだ。

 しかし、AIの進化によって人類が滅亡の危機に直面するリスクが高まるとして警鐘が鳴らされている。

 偽情報、誤報の氾濫、プライバシーや著作権の侵害、バイアスのかかった因果関係の推論などもAIがサクっと処理してくれるのはありがたい。

 例えば、週刊誌が「今回の記事に誤りがあったので一部訂正いたします」なんてアホな失敗も低減されるし、「やりなおし会見のやりなおしのやりなおしの10時間会見・・・・」という無限ループに陥ることもなくなるだろう。

 一方では、「人知が退化する」という恐怖を感じるのである。私はチンパンジーだから蚊帳の外の話なのか?

 今後は、空間認知に関するAIのスタートアップ企業が増えていくのだろう。
 研究に全精力を注いでいる新興企業の意思決定の速度は速い。画期的な技術を生み出し、IT大手企業からシェアを奪う可能性はますます高まるだろう。

 わずか数年で世界の経済や産業の構造が大きく変わる可能性もある。
 そして私は、加齢であらゆる機能が劣化し、遂には何もかも認知できないことになるのかもしれない。