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#279 読書日記42 とかくに人の世は住みにくい

中学生のとき、国語の教科書に載っていた『坊ちゃん』をきっかけに、『三四郎』『それから』『こころ』を読み、高校生、大学生の時にも何度か読みなおした。

長男が国語教師なので、学生時代に読んだ本が今も残されている。
暇を見つけては読んでいるのだけど、古本屋で買ったのか、とんでもなく古い文庫本もあって、漱石の『草枕』を見つけた。

今さらながら、昭和時代の活字はこんなにちっちゃかったのかと驚いた。
こりゃ老眼鏡を使わないと読めない。


少年期は、人の心に潜む偽善について疑問や悩みを抱えていたからなのか、正義や誠実の心を持ちたいと思いつつも、人を恨んだり憎んだり、他人の不幸を願ったり喜んだり・・・・

そういう自分が嫌だったのだが、オトナになるに従って「生きる」とはそいうことも背負いながら生きていくことなのだという思いに至った。

大人になってから『草枕』の冒頭の文章の深さに気付いたのだった。

智に働けば角が立つ。
情に棹させば流される。
意地を通せば窮屈だ。
兎角に人の世は住みにくい。

その後に続く物語にこそ漱石の思いがあるのだと思う。
文豪の計算された物語設計に改めて感服。

この世が住みにくいと言っても、人はそこで生きていくしかない。

よいところへ行きたいと思って場所を替えてたって、そこにも住みにくい要素があって、厄介な人がいたり、嫌なことだって起きることもある。

それでも人は自ら選んだ場所で生きていかなければならない。

生きやすさ、生きづらさとは、心の持ちよう。

理想の世界を想像して、それを実現しようと創造するのもまた人の営みである。

文学や芸術の実効とは、そういうことを考えさせてくれることなんだろう。