
#411 青い微笑み/絵本『翻訳できない世界のことば』 繊細な心情No.3
読書日記&エッセイ(1,400字)
WELISH ウェールズ語
GLAS WEN 青い微笑み
皮肉であざわらうような微笑み

意地悪な微笑みから逃れるのは簡単ではない。居心地がわるくなって、臆病なひきつり笑いを返すよりも、そっと逃げ出したくなる。
この「翻訳できない世界のことば」をシリーズ化して、絵本の内容から派生させてエッセイを書くことにした。No.2で取り上げたウェールズ語の「HIRAETHヒラエス:帰ることができない場所」と同様、これもまた心の中に潜んでいる複雑な感情を言語化している。
言葉は、正に風土や生活、感情とともに育まれるものだということを実感するのである。
ウェールズといえば、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国を構成する4つの構成国のひとつで、連合王国の中でも独立性の高かったイングランド、スコットランド、北アイルランドとは事情が異なる道を歩んできている。
ウェールズは伝統的に、侵略者に対して頑強な抵抗を示し続けてきた国である。侵略者の青い微笑みと、迎え撃つ防衛者ウェールズの青い微笑みが衝突していたのかもしれない。
それにしてもなぜ「青」が嘲笑のイメージなのか。
青や紫、水色などの寒色系の色は、副交感神経を刺激するとされている。交感神経は体を休めているときに活発化する神経で、交感神経とは反対に生理機能を鎮静化させる効果があるとされている。
同じ色でも国や文化、歴史、習慣によってイメージが違うらしい。青は「誠実」「信頼」「晴れやか」のイメージがある一方で、「孤独」「憂鬱(ブルーな気分)」「ブルース(悲痛な叫びの歌」など、ネガティブや暗いイメージもある。
生物学的には、人種による瞳の色や地域による太陽光の波長なども色のイメージに影響を与えていて、日本人の黒+茶色の瞳と欧米人の青や緑の瞳(メラニン色素が少ない瞳)では明るさの感じかたが違うそうだ。
意思やイメージの表出
人間は、耳で言葉を聞くときには左脳にある感覚性の言語野を使い、話すときは運動性の言語野を使うそうだ。簡単に翻訳できない繊細な心情をあらわす言葉は、必ずしも言語中枢だけで処理しているわけではなく、経験的、反射的に分別処理して自然な微笑みや、意志によって生み出す微笑み(つくり笑い)として表情筋が反応する。
笑いには自分の意志でコントロールできる随意的なものと、自分の意志では制御できない不随意的・反射的なものがあるということだなんだろう。
笑いの分類
・本能充足の笑い ・期待充足の笑い ・不調和の笑い ・価値低下(逆転)の笑い ・協調の笑い ・防御の笑い ・攻撃の笑い ・価値無化の笑い ・緊張緩和の笑い
世の中には、心が痛む犯罪やいじめ、差別、悪口、誹謗中傷がそこここにある。
思いやりも道徳心のかけらもない者が相手をさげすんだり、あざ笑うかの如く人の尊厳を踏みにじる行為がある。それが青い微笑みなのか。
私の中にも複雑な心情が内在している。嫌いな人、うるさい人、厳しい人、意地悪な人から何か言われたとき、被害者感情に基づいて怒りが湧き起こることもあるが、「ふふん」と鼻で嘲笑い、青い微笑みをたたえることもある。
それは「お前なんか死んじまえ」という悪魔の青い微笑みなのか、それとも、「ああ、なんて可愛そうな人なんだ」という慈悲深い神仏の微笑みなのか・・・・
「微笑み」というものが、人としての度量を試すリトマス試験紙のように思えてきた
( ̄ー ̄)ニヤリッ