#317 就活で疲弊する学生たち
就活生にとってインターンシップの意義と影響力が増している。
一方で心身の疲弊も起こっている。
企業が実施する「汎用型能力・専門活用型インターンシップ」で得られた学生の情報が採用活動に利用できるようになったことは大きい。
従来のインターンシップは、どの時期に行われても、学生の情報は広報活動や採用活動に活用できなかったが、今は選考に加味できる。
雇用市場は学生優位の「売り手市場」とされ、青田買いしようと採用活動のスタートを早める企業が増え、大学生は実質的に就活を前倒ししている。
学生は「早く決めたい」と思うし、複数社から内定を得られるのは嬉しい。
しかし、内定をもらった複数企業の待遇を比較しながら「本当にこの会社でいいのか?」と迷うことがあり、検討すことに時間を要して就活を終えるタイミングが遅くなっているケースもある。
企業側は優秀な人材を確保するために、インターンシップとは別に講演会や企業研究、ビジネスアイディアコンテストという名の下に学生を囲い込んだりもしている。
2年生くらいでも何かしらの形で企業と関わりを持っている学生がいる。
3年生は春から企業説明会やインターンシップに参加するのが当たり前のように行われるようになった。
やる気に満ちあふれ、学生生活そのものが充実している好事例もあるが、企業に振り回されて学業が疎かになるという本末転倒の現象も見られる。
以前は大学側からお願いしていたことが、今は企業が積極的に大学に働きかけるようになった。
企業にとって、インターシップを通じて内々の予備選考をおこなえるメリットは大きい。
学生にとってはインターンシップが就活のスタートラインになったと言える。
キャリア教育全盛の時代、中・高生のインターンシップは職業観や勤労観の動機付けという押さえで取り組むが、大学生ともなると本腰を入れて取り組まなければならない。
学内のキャリア関連部門の職員とあれこれ情報交換した。
厚労省が10月1日に発表した有効求人倍率(季節調整値)は、1.28倍となっている。
人手が足りず、多くの企業が積極的に求人募集をしているときは、有効求人倍率は1を上回る。
数値が大きいほど「就職しやすい」傾向にあるわけだ。
学生にとって有利な状況のように感じるが、厚労省が公表したその他の資料に目を通すと、大手企業と中小企業との格差が大きいことがわかる。
従業員5,000人以上の大手企業の求人倍率は0.14倍
従業員300人未満の中小企業では6.19倍
つまり、全体的には学生に有利な売り手市場だが、大手の人気企業は依然として狭き門であることに変わりはない。
二極化する学生
就活の早期化によって二極化が起こっている。
早めに情報収集を始め、自ら積極的に企業にアプローチした学生は複数企業から内定をもらっている。
スタートが遅れた学生は苦戦している。
これまでに私の授業やゼミ、講習等で関わった学生が相談に来るケースが増えている。
「キャリアサポートしてくれる学内の就職センターに行って相談しなさい」と突き放すこともできるが、それができないから私の所に来ているのだと思う。
面談する中で明らかになるのは、やはり始動が遅いということ。
初動で見当違いなことをやっている学生もいる。
「聞いていない」「教わっていない」「情報が届いていない」というのは、ある意味、子どもの言い分のように聞こえてしまう。
人生における大切なイベントに関しては、「待ち」の姿勢ではなく「自分で取りに行く」という姿勢が必要だ。
だからと言って、叱りつけるばかりだと学生は身動きが取れなくなってしまう。
自分の学生時代を思い出してみると、友人同士で情報交換し「共に就職戦線を戦おう!」という「同志」の感覚だったが、今はそういう関係性も築きづらいのだろう。
学生たちにとって「マイナビ(マイナビ社)」や「リクナビ(リクルート社)」のサービスが強い味方となっており、それを主体的、積極的に活用する学生は確実に成果を出している。
さらに積極的な学生は企業とLINEでつながりを深め、さまざまなアドバイスをもらっている(企業が積極的なのか?)。
以前から青田買いはあった。
外資系やメガベンチャーは早期から堂々とやっていたが、日本企業も水面下ではやっている。
私も学生時代は教員になれなかった時のことを想定して、複数の企業から内定をもらっていた。
昭和時代、インターンシップというものはなかったが、アルバイトで深い関わりをもっていたお陰で横浜の企業に入社した。
現在、経団連に加盟している企業は、採用選考活動が開始する6月に内々定を出すことが多い(6月に内々定、10月に内定)。
内定が出て就活が完了する学生がいる一方で、それ以降も就活が続く学生は多い。
就活の早期化は、学生からすれば就活の長期化となる。
3年生になった途端に活動が始まり、そこから内定をもらうまでの活動が長いということだ。
心身共に疲弊する学生も出てくる。
気がかりなことは他にもある。
晴れて就職した学生でも、3年以内に離職するケースは32%と相変わらず多い。
最近は「退職代行サービス」を利用して、会社と面倒なやり取りをせずに退職する労働者が増えているとう。
学生の心身のケアやサポートをする私たち教職員は、卒業後も学生と密接に関わることは稀だが、卒業後の安定も視野に入れながら学生を鍛えるとなると、なかなかタフな仕事だなと感じる。
とは言っても、私の本業は学問を通じて講義したりワークショップすることだ。
情けは人の為ならず
そのうち、私が下の世代に支えられながら、やがて “ 終活 ” しなければならない時がくる。
学生たちにどんな力を身に付けさせるかを考えると同時に、自分の老後も考える必要がある。