#167 愛着関係の再構築へ向けて
『愛着障害』岡田尊司/光文社新書
精神疾患や発達の課題、不登校、家庭崩壊等、多様な背景をもつ生徒が多数いた学校に勤務していたことがある。
教頭として一日中、その対応に追われて専門的な勉強をしている暇がなかったので、実務を通して知識と対応技術を身に付けていた時期があった。
あるとき、校長から渡された本がこれだった。
問題の根っこには、子どもと保護者との関係性にまつわることが多いと感じていたが、「愛着障害」の現実を知ることによって新たな視点が加わった。
現在はいろいろな専門書を入手できる。
岡田尊司(医学者、作家、岡田クリニック院)の著書が発刊されたのは2011年。
まさに私がドタバタしていた時期と重なる。
「愛着障害」は初めて聞く言葉だった。
さすがに養護教諭やSC(スクールカウンセラー)は知っていた。
私自身、そうした知識を付けることから始めた。
ちょうど臨床心理士をめざす大学院生の実習指導教官をしていた関係もあって、学生たちと共に認識を深め合った。
学校でどんな支援ができるかを考え、家庭とどうつながっていくべきか作戦会議をおこなったりもした。
家庭へ入り込むために児相やSSW(スクールソーシャルワーカー)の手助けも必要だった。
当時、政府や文科省から青少年に関わる問題のひとつとして、愛着障害が指摘され始めていた。
いわゆる24時間都市化や通信メディアなどの急速な発展と普及に伴う援助交際や家出などによる未成年の犯罪(加害・被害)が増加しているという問題だ。
家庭や学校という身近な環境から逃避したいと感じている未成年女子が多いというデータが示されていた。
彼女たちは援助交際に対する心理的抵抗が弱い。
本来、家庭は情緒的な温かさやぬくもりといった核となる人間関係を築く機能を担うものと考えられているが、こうした少女達の家庭は愛着機能を有していない。
家族に望むことのできない愛着機能を埋め合わせるように非行に走ったり、性行為に依存する事例が多いが、すべてがそうした行為に走るわけではない。
身体的症状(チックや不眠・食欲不振等)や多動、モノへの執着、自傷行為等々、あげるとキリがないくらい多様な現象へ派生していく。
いずれにしても、アイデンティティの確立やコミュニケーションが大切であり、安心安全な居場所をつくることである。
現代はSNSで “ つながりがったつもり ” に陥っている若者が多いという。
生成AIによるお悩み相談も活発化している。
関係性のあり方や方法が多様になることは一見すると良いように思えるが、生身の温もりを感じられる環境の構築を第一に考えたい。
こころの結びなおし、出会いなおし、つながりなおしについては、個別の支援メニューが必要になる。
場合によっては家庭から分離して養護施設・グループホーム、シェルター等で保護することもある。
しかし、18歳に達した時点で保護対象から外されて不幸の再現につながっているケースも見られる。
現在、サードプレイス(第三の居場所)づくりが増えていることは幸いである。
未来をつくる子どもたちの環境づくりは待ったなしである。